父の手帳

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 父の膵臓に癌が見つかった。  肝臓にも転移していて、余命三ヶ月の宣告。  そして、その告知から二ヶ月後に父は死んだ。  父の死を目の当たりにして、私が感じたことと言えば「あぁ、人間って本当に死ぬんだな」ってことだった。  私は看護師という職業柄、人の死と対面することもあれば、死生観についても学んできた身だ。それなのに父の死に直面してみると、今まではやはりどこかで他人事としていたんだなと感じた。  私は父が嫌いだった。  父は頑固でプライドが高く、自分にも他人にも厳しい人だった。それに、小さな田舎町の高校の教師ということもあって、すごく世間体を気にする人だった。  だから、幼少期を思い返せば、私はいつも父に叱られていた。  「挨拶しなさい」「生意気だ」「態度が悪い」「泣くな」等、躾けと言えば躾けだが、理不尽なこともたくさんあったように思う。  あまりに叱られてばかりだから、私なんか「いらない子だったんだ」とか「父は私が可愛くないんだ」とか「生まれてこなきゃよかった」とまで思ったこともあった。  
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