父の手帳

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 「何これ!?こんなの出てきたけど…」  父の四十九日が過ぎ、実家の父の部屋で遺品整理をしていた時のこと。  一回り年の離れた兄が、出てきたものを爆笑しながら私に見せてきた。  ソレは俗に言うところの"エロ本"だった。  「ぶはっ!」  私は思わず吹き出した。  まさか、いい歳したじいさんのタンスからそんな物が発見されるなんて、思ってもいなかったから、私はヒーヒー言いながら笑い転げた。  「あの堅物のじいさんも男だったんだね」と、息をついて私がそう言うと「去年…一昨年のかな…わりと新しめだわ」と兄がにやけ顔でソレをパラパラとめくって見始めた。  「ひぃー!やめて、見たくない!お兄ちゃん、ソレ遺品として持ち帰りなよ」    兄は「それもいいな」とハハっと笑った。  その笑顔に父の面影を見て、胸がチクンと痛んだ。私はそれを誤魔化すために「死ぬのわかってたんだから捨てとけばいいのにね」と、思ってもいない毒を吐く。  「厳しー…でもさ、もっとヤバいもの出てきたらどうする?」  「ヤバいものって何よ?」  「何だろうね、借用書とか?」  「うわー…それ一番最悪かも」  やんや言いながら、私たちは片付けを進めた。
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