父の手帳

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 息子がもうすぐ二歳になろうとしていた時、パンデミックが起こった。  新型コロナウィルスCOVITD-19だ。  その未知のウィルスは、世界を震撼させた。感染すると健康な若者でも重症化することがあり、世間は人との接触に敏感になり、国民全体に感染対策の徹底を呼び掛け、緊急事態宣言が出された。  制約のある生活が約三年にも渡り、医療現場で働く私は、自分が院内に持ち込んでしまわないように、いつも気を張って生活をしていた。  感染者数がピークになり、保育園が一時的に閉鎖になった時は、夫がリモートワークだったため頼りになった。夫は、どこにも出かけられないし、リモートしながらの元気いっぱいの幼児の相手は、ものすごく大変だったと言っていた。  夫には感謝しかない。夫婦助け合って、労い合って、私たちはこの困難と向き合って生きていた。  コロナ禍になって、実家へはずっと帰省していなかったが、リモートで顔を見せ合うことは怠らなかった。  そんな時の父は、母が孫と話すのに夢中になっている画面の奥で、読んでいる新聞からチラリと視線をよこして「元気でやってるのか」と一言聞いてくるのみだった。  
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