父の手帳

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 そうして、実家に帰省できずに二年以上が経った。  そんなある時、勤務中に母から電話が来た。  勤務中はケータイは使えないとわかっているはずなのに、母からのしつこいくらいの着信に私は胸騒ぎがした。  上司に了承を得て電話に出ると、取り乱す母から告げられた父の余命宣告。  「どうしよう…違う病院でもう一度検査するべきかな?」と、その事実を受け入れたくないという気持ちが表れた問いに、私は返す言葉を失った。  余命まで宣告されてしまっている時点で、確定診断なのだろう。  こんな時、医療の知識があることで、告げられた病名で、予後がどんなものになるのか容易に想像できてしまう。  あんなに嫌いだと思っていたはずなのに…  その事実に衝撃を受け、悲しくて、胸が苦しくなっている自分に驚いた。    「お父さんは…今、家なの?大丈夫なの?」  何が大丈夫なのか。  大丈夫なわけがあるか。    私は頭が真っ白になり、ひとまず「勤務中だからかけ直す」と言って、電話を切った。  「時田さん…大丈夫?」    一番年の近い同僚が私を心配して声をかけてくれた。  私は張りつめていたものが一気に緩んで、涙が溢れた。  着けていたマスクが、涙と鼻水でびっしょりと濡れた。
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