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体調も悪くないし、周りに感染者もいなかったため、週末、私は夫と息子を連れて実家へ帰省した。
父は、平然と「おぉ、ずっと顔見せなかったのに、急にどうした」と、以前とちっとも変わらない様子だった。
私は父の落ち込んだ様子を目の当りにしたら、感情を押し殺すことが出来ないんじゃないかと心配していたが、あまりにもいつも通りの様子に、少々肩透かしを食らった。
四歳になった息子の凛は、リモートでか知らない祖父母との対面にモジモジしている。
「大きくなったな。賢そうな顔してる…」と、父は凛の頭を撫でた。
病気のことには触れてほしくないと言いたげな父の態度を察して、この日、私たちはそのことを口にすることが出来なかった。
二週に一回、私は夫と凛を家に置いて実家へ行った。
父の体調もだが、母が心配だった。
しばらく音沙汰なかった兄も、頻繁に実家に来るようになっていた。
家のことは何でも父が取り仕切っていた。
父は死ぬまでにしておかなくてはならないことを、動けるうちにと身辺整理をしていたようだった。兄はそれを手伝ったりしていたが、私はそんな様子を眺めるだけで、母のケアに徹し、相変わらず父とは距離を置いたままだった。
もうすぐ死んでしまうとわかっているのに、長年の間にできた溝はそう簡単には埋まらない。
そして父は徐々に衰弱し、痛みが強くなって、最大量の痛み止めを飲むようになっていた。そして、床に伏せる日が多くなっていった。
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