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余命宣告されて二カ月が経とうとしていたある日、母から電話がきた。
「お父さん、痛みがどうにもならなくなって…救急車で…さっき入院しちゃった」
母は力なくそう言った。
コロナ禍のため、入院したら最後。面会ができないため、死ぬまで会うことが出来ない。
そっか…
私は病名を聞いた時から、こんな日が直ぐに来るんだなと覚悟はしていた。
覚悟はしていたのに…
胸がざわついて、苦しくて、心の置きどころがわからない。
夫は、そんな私を何も言わずに抱きしめてくれた。そして状況をわかっていない凛も「ママ、泣かないで」と抱きしめてくれた。
父が入院して三日目、父のケータイから電話がきた。
父と電話で話をするなんて、今までしたことがあっただろうか…
私は恐る恐る電話に出た。
『愛菜か?』
「うん…」
『…父さん、もうダメみたいだ……だから、最後にお前に…」
父の声はかすれて力なく、今にも消えてしまいそうだった。
何か言わなきゃ…
何か…
私は何て言っていいかわからず、咄嗟に「何弱気なこと言ってるの?まだ大丈夫だよ、明日、また電話ちょうだいよ」と言ってしまっていた。
何言ってるの私…
もっと言いたいことあるでしょ…
そう思って、次の言葉を探している間、少し沈黙する。
『…そうだな…じゃ、また明日』と父はそう言って電話を切った。
だけど、その明日は父には来なかった。
"父が死んだ"と、兄から連絡が入ったのはその日の夜中のことだった。
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