第1話 魔王討伐の褒美

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第1話 魔王討伐の褒美

 真っ赤なカーペットが敷かれた豪華な広間――玉座の間。  跪き、頭を垂れる私たちに、皇帝の歓喜溢れた声が降り注いだ。 「ダグ一行よ。よくぞ魔王を倒し、この世界を救ってくれた! まさに、我が帝国の歴史に名を刻む偉業である!」  皇帝の言葉に、私――アウラはますます頭を下げた。  私はお褒めの言葉を頂くほど、大したことはしてない。  だって後方支援職である神官なのだから。  頭を下げつつ、隣にいる人物に視線だけ向ける。  全身フルプレートアーマーの、とても大きな男性――マーヴィ。  彼は盾役(タンク)で、戦いの際には鎧と同じくらい厳つく大きな盾を持ち、敵を引きつけて攻撃を受ける役目を担ってくれていた。  筋力がなくて鎧も身につけられない紙防御力の私が、魔物に狙われずに済んだのは、彼のお陰だと言っていい。  大きな肉体とフルプレートアーマーという目立つ風貌だけれど、普段の彼は無口で静か。いつも私とダグの会話の聞き役になっていた。  視線を前に向けると、この魔王討伐パーティーのリーダーであるダグの後ろ姿が見えた。  後ろ姿だけなのに、もうそれだけでドキドキする。  ダグは昔から人が持ち得ぬ力を持っていて、故郷の村を襲った魔族をたった一人で殲滅したことがあった。    その噂が帝都に届き、皇帝直々に魔王討伐を依頼されたのだ。  彼の力は過去の勇者様と同じものだとされ、この世界の創造神たる女神に選ばれた勇者と呼ばれるようになった。  ひとくくりにした栗毛色の長い髪が、背中に流れているのが見える。  勇者は色んな人に会うからと、いつも念入りに手入れしていたので、私よりも艶々だ。女の私ですら、元々長かった金髪の手入れが難しくなって早々に肩の辺りで切ったのに、ダグは凄い。  綺麗なのは髪の毛だけじゃなく顔もだ。  もちろんスタイルだっていい。  とにかく、格好良くて素敵な勇者なのだ。  だからか、行く先々の街や村の女性たちの視線を集め、人だかりができることもあったけれど、彼はそんな女性たちを邪険に扱うことは決してない。  格好いいだけでなく紳士。  そして――私の婚約者。  ダグと私は、同じ孤児院で暮らしていた幼馴染みだ。  私は、神聖魔法の才能を見いだされたことで神殿で洗礼を受けた後、神聖魔法を習得して村の神官の一員となった。  私は幼い頃からずっとダグに恋心を抱いていた。  叶うことのない想いだと思っていたけれど、勇者の力を認められて魔王討伐が決まった際、彼から告白されたのだ。  この戦いが終わったら一緒になろうと――  嬉しかった。  だけどそれ以上に不安があった。  魔王討伐なんて危険な旅だ。最悪、命を落とす可能性だってある。  彼の死を想像したら、いてもたってもいられなかった。  幸いにも私は神聖魔法が使える。  神聖魔法は、傷を癒やしたり毒を浄化したり敵の攻撃から守ったりと、補助的な魔法が多いけれど、ダグを守ることはできる。  ならばこの力を、愛する人のために役立てたいと――  こうして私たちは、魔王討伐に旅立った。  途中、盾役の戦士であるマーヴィさんを加え三人パーティーとなった私たちは、三年という長い時間をかけ、とうとう魔王の討伐に成功した。  三年間、本当に大変だったけれど、ようやく彼と結婚して結ばれる。  清い体でなくなれば神聖魔法が使えなくなり、神官として人々の役に立てなくなるけれど、これからは一人の女性として愛する人の役に立ちたい。  彼との未来を想像すると、嬉しくて自然と顔がにやけてしまう。  皇帝がさっきからずっと何か話しているけれど、全然話が耳に入ってこ―― 「勇者ダグよ。魔王討伐の褒美として我が娘イリスを与えたい。そしてともに、この帝国を治めるがいい。お主の力で、帝国を更なる発展に導いて貰いたいのだ」 「はい、謹んでお受けいたします。イリス皇女様とともに、帝国の未来をよりよいものにすることをお約束いたします」  ……え?  今、何て?  何の話をしていたの?  皇帝の前だということを忘れて顔を上げると、私の婚約者が、皇帝の一人娘であるイリス皇女様と手を取り合っている光景が目に飛び込んできた。  訳が分からなかった。  ダグ、どうして皇女様の手を取ってるの?  そんなに嬉しそうに笑ってるの?  ……うそ、だよね?  そこにいるのは、私のはずなのに――  ダグが一瞬だけこちらを見た気がした。  その口角は、まるで私を嘲笑うかのように上を向いていて……  周囲から上がった歓声は、私の耳に入ると全て雑音となって脳内をかき乱す。  体中が寒くて仕方ないのに、額には変な汗が噴き出している。何だか呼吸も荒くなって、空気を吸い込めば吸い込むほど苦しくなっていく。  足元の地面が揺れてる。  いや揺れてるのは、 (私の体……?) 「アウラ!」  マーヴィさんが私の名を叫んだ。  次の瞬間、ぐらりと目の前が歪んだかと思うと、私の意識は闇の中に沈んでしまった。
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