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インフルエンサーが出品されていた。
アケミは「どういうことだろう?」と思ったが、詳細を見ると、インフルエンサーになりかわることができるようだ。フォロワーを受け継げるという。
「そんなことができるの?」
美容系インフルエンサーで、化粧のビフォーアフターを投稿するアカウントだった。
「え?見たことある」
マスカラの使い方を動画プラットフォームで検索したときに、このインフルエンサーの動画にいきついた。
化粧前は、さえない顔をしていた。化粧しているなかで、どんどんかわいくなっていって、完成したら別人だと思えるほどになった。
「あの人になれるってこと?」
少しテンションが上がった。
販売額を見ると、落胆した。とてもじゃないが、手を出せる金額ではない。
ひとまず気になるボタンを押しておいた。
すると、すぐに値下げの通知がきた。
これなら手が届かない額じゃない。
さらにダメもとで希望額をメッセージで出品者に伝えてみる。
「かしこまりました!ご希望の金額に値下げいたします。専用にしますね!」
やたらテンションが高いメッセージだった。
金額が変わった。
購入ボタンを押す。
アケミはこのときの選択を後悔した。
毎日、顔出しで化粧のビフォーアフターをやっていて、はじめは興奮した。
たくさんのコメントがつき、再生回数も10万を越えた。こんなたくさんの人が見てくれるなんて。
しかし…。
誹謗中傷のコメントも目立つ。
「なんか最近、アフターもブサイクになってない?」「調子に乗ってんなよ」というネガティブコメント。
「今度エッチなことしませんか?」「撮影のとき、パンツの色は何色ですか?」という変態コメント。
「あの部屋はもしかしてあそこですか?」「友達の友達が知り合いで。携帯番号コレですか?」というプライベートを詮索するコメント。
どれもこれもが、ウザったい。
「アケミの年収や月収はいくら?本名や家族構成も調査」という記事がいくつもあがっていた。だいたいが憶測でデタラメな内容。そのなかで家族の名前や実家の住所が特定されている記事もあった。
毎日毎日、自分の生活が監視されている気になる。街を歩いていても、どこかに変なヤツがいるのでないか、不安になる。
やがてアケミの精神は壊れていき、投稿ができなくなった。投稿をやめるという動画にも、「パフォーマンスでしょ」「どうでもいい情報だわ」というコメントがついた。
「そもそも美容なんてやりたいわけじゃなかったこに…」
アケミはインフルエンサーになったことを呪った。一度、有名になると、有名ではない世界には戻れない。
転売したい…
出品することを決意した。
次にインフルエンサーを買ってくれる人はいるのか。いや、ただでもいい。お願いだから、インフルエンサーになって。誰か…。お願い…。
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