ソーダ味の恋、してみる?

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 どんなに楽しくても、夏が終わればそのままフェードアウトする。  それが夏の恋。  来年も会おうぜ、と約束しても永遠に果たされない。  噴き出す汗をなんとか鎮められないかと、俺はソーダアイスをかじっていた。  最後の一口が暑さに耐えきれず、地面に落ちた。  少し離れた所に同じような青い塊がもう一つ落ちてきた。  条件反射的に俺は顔を上げた。  落とし主は少女だった。 「なによ?」  仏頂面で言う。 「えっと……」  俺と同じ轍を踏んだ奴ざまぁ、なんて返すわけにもいかず、彼女の手元に目をやった。  アイスの棒がそこにある。  指で隠れて見づらいが、逆さまになった『り』の字が見えた。 「ほら、それ『当たり』だろ」  俺は事実を言ったが、目が泳ぎまくってしまい、苦しまぎれ感が出てしまった。  少女の表情が、不審者を見るそれになった。ただ、意外にも素直に手元の棒を確認した。 「さすがアタシ。日頃の行いが良いおかげだね」  ふふん、とドヤ顔になる彼女。  突っ込みたいが、初対面なので俺はなんとも言えない。 「でも珍しいよね。ふつう、『あたり』の字の部分はアイスの中に埋まってるじゃん? 機械のエラーなんだろうけど、指でうまいこと隠れたんだね」  彼女は笑みを浮かべて、棒を持った手をくるくる回していた。  この日をきっかけに、俺たちはほぼ毎日遊ぶようになった。  夏祭りの日、彼女は浴衣で現れた。  俺が思わず「かわいい」と漏らすと、 「もっと褒めていいんだよ」  彼女はドヤ顔になるのだった。  この生意気な態度さえなければ、本当にかわいいのに。  なんなら告ってもいい。  けど、休みの終わりと共に、家に帰る日も来た。  せっかくスマホもフル充電したが、連絡先を交換しようと言う勇気がいまいち出ない。  チャンスは毎日あったのに。  最終日の今日を逃せば、彼女と来年も会える保証はない。  言うべきか、言わないか。言って拒否られたらどうしよう。そもそも友だち認識すらされてなかったら。  ぐるぐる考えながらゆっくり歩いたつもりだったが。  時間通りに、いつもの待ち合わせ場所に着いてしまった。  彼女も同じようなタイミングで到着した。 「これが欲しかったんでしょ。物欲しそうにしてたから、あげる」  と、透明な袋を出してきた。  中身は『あたり』が書かれたアイスの棒。  いや、当たってうらやましいとはちょっと思ったよ。  でもプレゼントにするってどういう神経だよ。  ご丁寧に、商品みたいに台紙に固定してある。なにこれ。なんで女子ってこんなどうでもいいところにこだわるわけ? 「アタシの優しさに感謝しなよ?」  そう言って彼女は去っていった。  俺の夏は終わった。  しっかし、優しさってなんだ。アイスが実質タダで食えるからか? 自分で引き換えなかったことか?  ともかく、あいつ最後まで上から目線だったな。  とりあえず忘れないうちに引き換えて食うか。ちょうど目と鼻の先に店があるし。  俺は袋から棒を出し、しばし固まった。  指で隠れて見づらいが、台紙に手書きのQRコードが。  いや、わざとこの位置になるよう書いたのか?  イタズラにしては凝ってるし。  俺はスマホを取り出した。  結論を言うと、彼女なりの勇気だったんだ。
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