リンゴ色のシャンパン

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「いえいえ。じゃあ、アリサちゃんの本名を教えてもらっちゃおうかな」  ヤギ男がデンモクを操作し、曲を入れた。僕が高校生のころに流行った歌だった。 「うわー、懐かしー」僕は思わず声を上げた。 「でしょ?」 「えっ、お兄さん、おいくつですか?」 「三十二。同い年ですよ」 「マジで?」 「マジマジ」 「うわぁ、すげえ」  ヤギ男が満面の笑みでグッドサインをして、歌い始めた。上手かった。アリサもユリも最初は、「うまーい」とはしゃいでいたが、次第に聞き惚れていった。僕も小さく歌詞を口ずさみながら、この曲を聞いていたころの思い出に浸っていた。特に具体的なエピソードが思い浮かんだわけではない。まだ何者でもなく、何者かになれるのではないか、と期待しつつ、でも、どうしていいかわからず、つまらない毎日だ、とため息をついていた、大人になったつもりの痛々しいあの頃の自分をぼんやりと思い出していた。
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