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もう結婚していると思っていた。車も持っていて当然だと思っていた。酒は飲めるようになっていた。タバコは吸わなかった。体重は十五キロ増えた。健康診断で引っかかるようになった。敬語も建前も愛想笑いも人並みに使えるようになったと思う。それなりの大人になれているはずだ。可もなく不可もなくの人生だ、と感じている。
これからもそうだろうか。ふと不安になる。そうであって欲しいと思う。
タケちゃんの顔が浮かぶ。幸せそうだった。数年前、会社の友人に三十万を貸して、逃げられたことを思い出す。「まあ、仕方ないよな」と苦々しく吐き捨てていた。ユッキーも今の奥さんの前に付き合っていた女と別れた時は酷く落ち込んでいた。マチちゃんはまだ奨学金を返しているはずだ。雄二は父親の遺産のことで兄と揉めているらしい。
グラスの中身を飲み干す。口元を手で押さえ、掌をため息で満たす。小さく深呼吸をする。アルコールを含んだ血液を心臓が優しく全身へ送られる。
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