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かけられた声をすべて無視して駅へ向かい、始発の普通電車に乗って自宅へ帰った。部屋に入ると服を脱ぎ棄て、パンツ一丁になり、水道水をがぶ飲みして、気を失うようにベッドに倒れた。目を覚ましたのは昼過ぎだった。案の定、割れるような頭痛に襲われ、一日中ベッドの上で過ごした。
一週間後、仕事終わり自宅でテレビのニュースを見ていると特殊詐欺グループの一人が逮捕されたと報道されていた。
ヤギに似ているその顔は、ガールズバーで出会った男と似ている気がしたが、違うと思えばそうも思えた。苗字は一般的だったが、名前が所謂キラキラネームだった。まさかな、と思いつつ、僕はチャンネルを変えた。
スマートフォンを手に取り、写真を開く。ヤギ男が歌い終わった時に一緒に撮った写真を見る。やはり似ている。だが、確証はない。僕は缶ビールを喉へ流し込んだ。
まあ、どうでもいいか。写真をぼんやり眺めて思う。そして、少し悩んだ後、写真を削除した。ヤギ男が映っておらず、アリサと一緒に映った写真は残しておいた。
だが、もうあの店に行くことはないだろう。その方がいい気がするし、それこそが大人として正しい行為な気がする。確証はないが。
僕はいつもより早く眠った。その方がいい気がしたから。明日からもいつも通りの日常が続きますように、と普段考えないことを考えながら。
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