鹿しかいない

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「シカし店ん中、暑いな。もっとエアコン下げれるか?」 (その毛皮のせいじゃないのかなあ) 僕は黙って壁のエアコンパネルをいじって設定温度を下げる。 店内は、カウンター席が5個、壁際に4名向けテーブルが2個ある、収容人数が少なめの店だが、複数の大型犬等の連れ込みを想定して広めの空間を確保してある。 BGMのジャズのリズムに合わせて、彼は陽気に小さく首を振っていた。 「シカし、この店、おいらシカいないじゃないか。普段からこんな客いないのかい?」 彼は出し抜けにそう言った。 「今日開店したお店なんです。お客様が、初めてのご来店です」 「そっか。そいつはめでたいな」  鹿は舌で口周りを舐めると、生ビールをお代わりした。
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