鹿しかいない

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「シカし、なんでこんなところにアニマルバーなんて始めたの?」 彼が、いちいち逆接の言葉で切り出してくるので、僕はいささかうんざりしてきた。 (でも、そのせいで彼はそばに誰もいないかも知れないな) 「特に理由はないです。今の僕にできることを考えたら、これになりました」 「ほう、自分にできることはこれシカないと思ったのかい?」 彼は鼻息立てて笑った。 気の利いたことが言えたと思ったようだった。 彼はクレジットカードでの支払いなのに、粋がってこう言った。 「釣りはいらねえ。祝儀で取っときな。あばよ!」 彼はウインクすると踵を返して、来たときと同じように、のっそりのっそりと歩いて出て行った。 (変なの) 僕は、思わず肩をすくめた。  
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