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薫は、咎人の言葉から彼が誤解しているのだと確信した。そもそも祖母は自分で確かめない限り、すぐに刺客を差し向けるようなことはしない慎重な人物だし、その変な男という人物も知らない。
それに、薫が咎人を探しに来たのは、何も外に情報を売り渡すためではない。もっと個人的な理由からだ。
そして、薫は自分自身も咎人のことを誤解していたと確信した。咎人は大事件のことを知らないようだったし、指名手配にされているのも今知ったという顔だった。
もしかしたら、彼は大事件の首謀者であることを隠している可能性もある。だが、子供時代から邪悪な魔獣や魔物を見てきた薫にとって、咎人はそれらの存在ほど邪悪な部分が見受けられなかった。
咎人は粗暴だが、悪い人ではない。先ほどは祖母が言う通りの指名手配犯だと誤解して、確かめることなしに逃げ出してしまった。それが、咎人には自分のことを外に告げ口するために差し向けられた間諜のように見えたのだろう。
何とかして、誤解を解かなければいけない。そう決心した薫は深呼吸して、泣くのをやめた。涙に濡れた翡翠の瞳で、咎人の顔を真っ直ぐに見つめる。
「な、何だよ……?」咎人は戸惑った。
「狼森さん、僕は」
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