第2章 薫の冒険

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 穴に潜む二人の上を、真っ黒な帳が覆い尽くす。雲が月を隠したのかと思いきや、穴は完全に塞がれていた。  閉じ込められたと確信し焦り出した咎人は、上に覆い被さったものに触れた。その時、手の平にゴツゴツとした木肌の硬い感触が伝わった。  薫の尋問に集中し過ぎて、化け物ガジュマルが忍び寄ってくる気配すら察知できなかった。迂闊に警戒心を緩めてしまった自分に嫌気が差した。 「え、うわ、どうしよう……」  薫は焦ってキョロキョロと上の方を見回した。逃げ出せるような隙間は、どこにもない。完全に逃げ場を失った。  二人の動揺と困惑を他所に、上から無数の蔦の糸が伸びてくる。それはまず、薫の上にいた咎人の腕や肩に巻き付いた。  咎人の抵抗も虚しく、蔦は首や腕に幾重にも巻き付いていく。憔悴に顔を歪ませ、喋ることのない生物に悪罵を投げ付けながら咎人は暴れ回った。  化け物は咎人を自らの体内に引き摺り込もうと蔦を引っ張った。首や腕に蔦が食い込み、咎人は上手く呼吸ができない苦しさと皮膚が破れるような痛みに喘いだ。 「あ……がぁ……っ」  叫ぶことも儘ならない苦しげな声を聞き、薫は自らの心に鳥肌が立つのを感じた。
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