第2章 薫の冒険

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 傍観者になるか、それとも被害者になるか。どちらを取っても待ち受けるのは苦痛と後悔しかない。  無数の薫が一斉に囁く。薫たちは入れ子人形(マトリョーシカ)の構造のように重なっている。彼らの声は、内側からそれぞれの層に反響しながら薫本人の耳に届く。  黙って見てなよ。助けたら化け物に食べられちゃうよ?  狼森さんなんか放っとこ、放っとこ。あんな乱暴な人、助ける意味なんてないよ。また殴られるだけだよ。  化け物が狼森さんを食べてる隙に、魔術を使って逃げ出せばいいよ。その後で屋敷に助けを呼ぼう。  そんなのは、駄目だ。だって、狼森さんは。  狼森さんはさっき、僕を助けてくれたじゃないか。
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