第2章 薫の冒険

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 咎人の方も、そろそろ限界だ。このまま咎人が死ねば、薫は傍観者として彼を見殺しにしたことになってしまう。  世間の人間たちは皆、傍観者だ。毎日事件や事故、戦争など見ず知らずの誰かの不幸を傍観して、他人事のように「許せない」とか「可哀想」とか無責任な言葉を口にする。彼らは一度、被害者になってしまえばいい。  そして、薫は傍観者から被害者へのを覚悟した。  右手の指先を全て真っ直ぐに立てる。指から翡翠の光が伸び、鋭利な刃物を形成した。弱々しい光は、瞬く間に強力で美しい光線へと変化した。  薫は尻餅の体勢から、踵を上げたまましゃがみ込む姿勢になった。  そこから呪文を叫びながら、ジャンプスクワット。 「切り裂け(Slash)!」  瞬間、翡翠の刃が伸び上がった。長身の刃は咎人を捕らえる無数の蔦を一気に切断し、上の方で構えていた化け物の口にまで切り込みを入れた。想像以上の殺傷能力に薫本人も愕然とした。  蔦から解放された咎人は地面に落下し、蹲ったまま激しく咳き込んだ。狭くなっていた気道が急に開いたおかげで、肺は大量の酸素を一気飲みした。逆に喉は焼けるように痛くなるし、肺も爆発しそうだ。  薫の悲鳴が聞こえた。
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