2ー⑵

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2ー⑵

「……沙織」 「なぜそこまで多近さんと春花さんに絡むの?かえってお仕事の妨げになるだけだわ」  沙織と呼ばれた夜会巻きの女性は、険しい目を俵藤となぜか春花にも向けた。  ――なるほど、あの人たちが多近さんの「恋敵」と「恋敵の許嫁」というわけか。 「くそっ、今日のところはこれで引き下がるが多近君、調子に乗っているとそのうち落とし穴に落ちることになるぞ」  俵藤は歯ぎしりをしながら言い放つと、許嫁と共に流介たちの前から去って行った。 「……多近さん、なんだか大変そうですね。これ以上、お二人を煩わせるのは心苦しいので僕もこれで帰ります」  流介がそう言って身を翻そうとすると、春花が「気を遣わないで下さい」と言った。 「いえ、こういう時こそお二人で海でも眺めたら良いと思います。周りに波風が立っていない穏やかな時にまた、お会いしましょう」  流介は何か言いたげな顕三郎と春花にそう返すと、二人の元から立ち去った。                 ※ 「飛田君大変だよ、なんでも昨日、君が会った多近氏が塔から転落して亡くなったらしい」 「なんですって?」  対談記事に目を通していた流介は、思いがけない知らせに思わず椅子から腰を浮かせた。 「どうしてそんなことに……」 「わからないが聞いた話では身体に刺し傷のようなものもあったようだ」 「刺し傷?じゃあ殺めた人物がいるってことですね?信じられない、あんないい人が……」  顕三郎の死が事故ではなく殺人かもしれないと知った瞬間、流介の頭に古太郎が口にした「もめごと」という言葉がにわかに甦った。 「まさか……」 「ちなみに死体を発見したのは多近氏の恋人で、夜の八時ごろだったらしい」 「春花さんが……先輩、ちょっと現場に行ってきます。取材じゃないんですが、大目に見て貰えますか」 「ああ、構わないよ。ただし警察が来ているかもしれないから、邪魔だけはしないように頼む。あとで「新聞が捜査を妨害した」と言われてはかなわないからね」 「わかりました」  流介は上着を手にすると、仕事を残したまま会社を飛びだした。
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