2ー⑼

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2ー⑼

 蓮杖寺春花(れんじょうじはるか)の家はこじんまりした日本家屋で、往来からやや奥まった場所に身を隠すように建っていた。  ――さて、何と言って声をかけたものが。警戒されては元も子もない。  流介が建物の入口を目の端に捕えながら行きつ戻りつしていると、いきなり脇から「あのう」と男性の声が飛んできた。 「はい……あっ」  現れたのは亜蘭の兄、兵吉だった。 「やっぱり飛田さんでしたか。こんなところで何を?事件を追っているんですか?」 「いや、実は塔から転落して亡くなった多近顕三郎氏の知人に話を聞こうと思いまして……」  流介が春花と多近の関係について手短に説明すると、兵吉は「ははあ、なるほど」と言った。 「しかしそういう事情がある方なら、すでにわれわれの仲間が聞きこみしているはずです。記者さんが訪ねて行って果たして腹を割って話してくれるかわかりませんよ」 「それは、仮に何かを知っていたとしても春花さんが俵藤をかばう可能性があるということですか?」 「いや、例えばですが……」  兵吉はそう前置きをすると「亡くなられた方になにがしかの「裏の顔」があったとして、恋人の醜聞をわざわざ語るとは考えにくいということです」と言った。 「なるほど、全てを明らかにしてしまうと、亡くなられた方にも殺されるだけの理由があったという事実がさらされてしまうというわけですね?」 「ええ」 「わかりました。さほど収穫はないかもしれませんが、気をつけて聞いてみることにします」  流介はそう言うと、まだ何か言いたげな兵吉に背を向け春花の住む建物に足を向けた。
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