7/8
前へ
/108ページ
次へ
 キリエさんは僕と目も合わせず、黙って水を飲んでいた。  もう週末のたびに迷惑を掛けて、毎度同じように「すみません」とばかり謝っているから、たぶん飽き飽きしているのだと思う。  彼女は白い顎先を天に向けて飲み干すと、ふうう、と深く息をついた。 「純太さー」  グラスに水を汲みかけた僕の手が止まる。 「すみません、すみませんって言いすぎやな」 「はあ」 「それやったら、いざというときの言葉が軽うなるし、もう止めた方がええよ」    けど、なんてことだろう、僕はそこでもう一回「すみません」とやってしまった。  そのやり取りが聞こえたのだろう。  厨房にいる中年女性パートの霧島さんが「あーあ」といって失笑した。  
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加