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 僕は、案内所奥の角に奏絵の姿を認めていた。  今日ここで話し掛けないともう二度とこういう機会はない、と尻込みしそうな自分に言い聞かせ、奮い立たせた。  ゆっくりと彼女の方に向かう。 「板橋さん、お疲れさまです」  僕の声に反応して彼女は顔を上げた。そして反射的に「お疲れさまです……」といった。  病弱なのに無理をしているせいか、彼女の青白かった顔も汗まみれで幾分紅潮していたが、それがなお僕の胸を高ぶらせる。 「あ、あの、僕、山下です」 「はあ……」 「先日メッセージアプリでやり取りしていた山下です」 「……え?」  彼女は、明らかに当惑した顔を見せた。 「あの、山下さんと言いました?」 「はい」 「あの、すみません。私、山下という人とはアプリやっていません。たぶん人違いです」
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