13人が本棚に入れています
本棚に追加
9
「なんで、なんで、僕だけ?」
絶望しつつ問うと、
「あなただけじゃありませんよ。」
「誰しも時にあるのです。」
「永遠に続くような冬が。」
「寒くて寂しい、ひとりだけの道が。」
「道のりが長いひともいるでしょう。」
「短いひともいるでしょう。」
『あなただけではありません。』
双子は初めて、健吉にほほ笑んだ。自分だけではない。歩くしかないのだ。三十年間。
健吉は、双子に言われる前に、当の昔にわかっていたような気がした。
「さあ、このカンテラをあげましょう。」
「さあ、この杖をあげましょう。」
『行く手に春が待っています。』
健吉は、カンテラと杖を受け取ると、双子にお辞儀をして、誰も歩いた跡のない雪道を、ゆっくりと歩き出した。
ついさっきの列車のなかの光景を思い出すと、くすりと笑った。しあわせだったな。楽しかった。
厳しい吹雪のなかを、微笑をたたえて健吉は歩いていく。いっそのこと、すがすがしいような気持ちさえしていた。
〈おしまい〉
最初のコメントを投稿しよう!