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心地よい夢をみていた。
胸につかえていたなにかが、すっきりと洗い流されるような、ほっと、こころの底に灯がともったような、そんな夢だった。
ふと目を覚ましたとき、健吉は列車のボックス席に、ひとりで座っていた。
開襟の半そでシャツに半ズボン、裸足の足には下駄を履いて、尋常小学校の紋章の入った黒い帽子をかぶり、布製の鞄をたすき掛けにして座っていた。
いつもの通り。いつもの通りの恰好。
むしろ想定外なのは、列車に乗っていることのほうだった。健吉は、そもそも列車に乗ったという記憶がないのだ。
窓の外をみると、延々と続く田に、稲穂が頭を垂れていた。
健吉は、なるほど、これは津軽平野を走る列車なのだな、と勝手に理解した。
その納得は不思議なもので、健吉の頭のなかで、あっさりと事実と化してしまう。
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