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「なんで、なんで、僕だけ?」  絶望しつつ問うと、 「あなただけじゃありませんよ。」 「誰しも時にあるのです。」 「永遠に続くような冬が。」 「寒くて寂しい、ひとりだけの道が。」 「道のりが長いひともいるでしょう。」 「短いひともいるでしょう。」 『あなただけではありません。』  双子は初めて、健吉にほほ笑んだ。自分だけではない。歩くしかないのだ。三十年間。  健吉は、双子に言われる前に、当の昔にわかっていたような気がした。 「さあ、このカンテラをあげましょう。」 「さあ、この杖をあげましょう。」 『行く手に春が待っています。』  健吉は、カンテラと杖を受け取ると、双子にお辞儀をして、誰も歩いた跡のない雪道を、ゆっくりと歩き出した。  ついさっきの列車のなかの光景を思い出すと、くすりと笑った。しあわせだったな。楽しかった。  厳しい吹雪のなかを、微笑をたたえて健吉は歩いていく。いっそのこと、すがすがしいような気持ちさえしていた。 〈おしまい〉
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