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思っていた職業では、なかったのだが?
「えっと。スライムは、粘質属性だから効果がありそうなのは、塩?
……っあぁ、くそ、分かんねぇっ!!!」
タブレットを片手にブツブツ呟きながら、町外れにある森を歩く。
魔法都市パセラ。
この国は優れた魔法使いを輩出している。
偉大過ぎる魔法使いは三人いて、三賢人の住む都とも呼ばれている。
魔法使いと言っても職業は数多で、魔法剣士、魔法料理師、魔法医師、魔防師から、魔法庭師なんてのもあるらしい。
要は何でも魔法を使う国って事だ。
パセラでは、16才になった時に職業適正試験を受ける。適正試験の結果で生涯の職業が決まるから、幼い頃からほとんどの国民が鍛錬している。
ブツブツ言いながら歩いている少年、パスターカも例外ではなかった。
パスターカの家は代々魔法剣士が揃っている。
じーちゃんも、父さんも、兄さんたちも、皆魔法剣士。
家族の誰もが、いや、パスターカ本人だって、魔法剣士になる……と疑いもしなかった。
適正試験終了後、渡された試験終了証明書と職業証明書カードに記された職業は、「魔法文官」。
パスターカは二度見どころか、三度見した。
誰かの証明書と取り違えたかと思い、名前を確認する。氏名欄には「パスターカ・シン」と、自分の名前がある。
襲う絶望。
剣技を磨いた。鍛錬も欠かさなかった。
なぜ。なぜ、自分は魔法剣士ではないのだろう。
魔法剣士になり、各地に現れるモンスターを倒すと思っていた家族たちは、パスターカの職業が魔法文官士であったことに落胆を隠さなかった。
パスターカと会話を交わさないまま、モンスター出現の連絡を受けて討伐に旅立った。
途方にくれたパスターカは、自分の能力がどのくらいなのかを知るために、町外れにあるガジャの森に向かった。ガジャの森は、スライムの巣窟。
パセラ国民は、小さい頃には親から「絶対に近づくな」と言われ育つ。
それなのに、今日まで都とスライムの巣が共存している理由としては、スライムはまとわりつかれたら厄介だが、どれも魔力は低いからだ。
10才に満たない体の小さな子どもにとっては危険かも知れないが、小刀など剣を扱える体力があれば、何の問題もなかった。
そして今、パスターカは魔法文官としての自分の適正を試すために、ガジャの森にやって来たのだった。
自分の呪文でスライムをバタバタと倒す。
森のスライムを全滅させてしまったらどうしよう、という僅かな不安とともに。
「うわっ!」
早速木の枝から、ヌメランと落ちて来たのは茶色いヌメランスライム。目も鼻も口もない。ただ、ヌメランとしているだけ。
「なんだよ、お前、脅かすなよ。しかも溶けてんなぁ。固体であれよ!」
自分に落ちて来た茶色いヌメランスライムに悪態をつく。
悪態をついている間に新しい呪文を考えなければならないのだが、まるで思い浮かばない。
「えっと、えっと。『塩!』」
思いついた呪文を口にすると、茶色いヌメランスライムは塩で埋もれた。
やった!
やったぞ!
……と思ったけど。
塩の山からヌメランスライムがヌラリと現れた。
……スライム一匹倒せていない……。
ガックリと肩を落としたパスターカの背後から、笑い声が響いた。
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