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ナザは動揺してサリの平手打ちを受ける
アイスナイトの出現を受けて、王城に出かけていたナザとサリが風に乗って戻ってきた。
ナザはパスターカが横たわっているベッドに駆け込む。荒々しく入ってきたナザに、治癒を施しているチルが首を振った。
青ざめて白い顔をして目を瞑っているパスターカ。呼吸は、ほぼない。
アイスナイトに刺された傷はチルの強力な呪文とカシリア特性の薬草軟膏と薬湯で塞がっていたが、アイスナイトの氷矢に刺された周りの皮膚に、黒い気味の悪い紋様が広がっていた。
パスターカの腹に巻いていた包帯を解き、傷をナザに見せたチルが静かに話す。
「見たことのない症状と紋様です。治癒呪文、薬湯、薬草が効きません」
「呪怒封印・解毒・体内除去」
パスターカの傷紋様に手をかざして、ナザが治癒呪文を唱える。パスターカの傷紋様にナザの呪文で生じた光が吸い込まれて行く。
ただ、パスターカには何の変化もない。
青白い顔のまま。意識も取り戻さない。
呼吸も細く、小さい。
チルが首を横に振る。
「起きろ! パスターカ! 目を覚ませ! モンスターにやられろなんて、誰が命じた! お前の主はオレだぞ! 主の許可なく、勝手に寝込むな! 」
パスターカに語りかけるナザの肩が小刻みに揺れている。
サリは後ろからそっとナザの肩に手を置いた。
「オレのせいだ! オレが浮遊石を渡したから。そして、オレが留守を頼むと言ったから! コイツは全力でオレに応えたんだ! 」
横たわるパスターカの手を取り、握る。
「すまない、パスターカ!」
瞬間、パチンッ゙と音がしてナザの頬に平手打ちが飛んだ。
「やめなさい! ナザ・キロア。賢人とも在ろう者が取り乱してはいけない。パスターカくんは生きることをやめてはいない。今も頑張っているんです。今、あなたがするべきことは、謝ることでも泣くことでも自分を責める事でもなく、パスターカくんを応援すること。それにやらなければならない事は山ほどあるでしょう」
サリがナザを叱りつける。
普段、滅多な事で起こらないサリがナザを叱りつけた事でチルも、離れた所で控えていたキトも、唖然としている。
叱られた事で、ナザの瞳には光が宿った。
落ち込んでいる場合ではないこと、自らやるべきことを思い出したようだ。
「サリ。すまない、ありがとう」
「謝られる事も、お礼を言われる事もありません。気づかれたなら、結構。ここは施術院。あなたよりもチルやキトくんに任せておいた方がパスターカくんも気持ちよく起きられることでしょう。我らは執務室に戻りますよ」
サリはいつも通りの穏やかな口調でナザに言い、ナザは素直に頷いた。
「チル、カシリアは?」
「薬草園に薬草を取りに行っています。パスターカには大量の薬草を施さねばなりませんから」
カシリアの薬草で作った薬湯や軟膏は、パセラ随一の治癒を誇る。
治療院の製剤を一手に担っているカシリアは、パスターカ治癒のために新鮮な薬草が必要で都度都度薬草園に取りに行っている。
「チル、キト。パスターカを頼むぞ」
ナザの言葉にチルとキトは、頭を下げた。
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