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腹減りパスターカは廃墟を彷徨い歩いている
「腹減ったなぁ……」
パスターカは誰もいない煤けた廃墟をブツブツと一人、呟きながら歩いていた。
「俺、なんでここにいるんだろ? 戻ろうと思っても、さっきから同じ道にばっか出るんだよなぁ。ここって、先日サリと来た廃墟だよね。なんで出られないんだろうなぁ」
ナザの家でアイスナイトと闘って、それから刺されたんだっけ?
え?って事は、俺死んでるの?
パスターカは自分の頬をつねってみる。
「イテテ」
痛いって事は、死んでない。きっと。
じゃあ、どうすれば?
困り果てて座り込む。
側に落ちている枝を拾い、廃墟の地図を地面に書いてみる。そして気づいた。
「すべての道が王城に向かっている」
パスターカは尻についた煤を叩きながら立ち上がった。ナザの屋敷に帰れないのなら、行ける所に行けばいい。自分がここに居る理由が掴めるかも知れないし。
「それにしても、人が誰もいない街と言うのは気味が悪いものだなぁ。嫌な奴だったとしても、街にはいるべきだ。いや、悪いやつなら、どうなんだろ。まぁ、モンスターは勘弁だけどさ」
怖さを紛らわす為に、歩きながら喋り続ける。
王城にたどり着いた。
煤けてはいるが、城の形状はそのままだ。
煤けていなかったら。人々がそのまま住み続けられたのなら。どれほど美しい都市だっただ事だろう。
門番のいない堅牢な門を開け、パスターカは王城に入った。門から城までの距離はかなりある。
黒く煤けた庭園が広がっている。
植物の種が飛んできて新たに生え変わっても良さそうなものだが、雑草一本生えてはいなかった。
「現草種・生茂草・育伸大木!」
思いつきの呪文を唱えてみる、が何ともならない。
「庭師のマージだったら、綺麗な庭にしてくれるのかな、今度は絶対、マージと一緒に来よう。それにしても、俺の呪文、本当、へっぽこだ……」
言いながら、パスターカは項垂れる。
「何ならできるんだよぉ、俺」
項垂れながら、王城の入口に続く長い階段を上り、気づいた。
「そうか。浮遊石。念じたらこの長い階段、上れたんじゃないか? あぁ、こう言うとこ。俺、ナザやキトに注意されるとこだ。まず、身体が動いちゃうんだよなぁ」
パスターカはボヤき続ける。
そうする事でしか、現状では自分を奮い立たせることができない。
入口には施錠呪文がかかっていた。
やたらには入ることができないのか。
「解・鍵・開扉」
古の解錠呪文を唱えてみる。
ビクともしない。
魔法で閉じられた扉にかかる、強力な施錠呪文。
施錠。物理的に開けようとすれば必要なのは鍵。
でも、かかっているのは魔法。
と、すると。
「鍵を現せばいい。解くのじゃなくて、施錠魔法を消す?」
考えろ、考えろ、俺。
パスターカは扉をじっと見つめる。
「消・施錠呪文」
魔法よ、溶けろ!
「現扉鍵・解錠・開扉!」
鍵よ、来い! 開け、扉!
既設呪文と自分の心に湧き上がる言葉を組み合わせ、心で強く念じて、扉に手を翳す。
パスターカの手のひらから、緑色に輝く光が上がり、閉ざされた扉に吸い込まれた。
開け、開け、開け!
固唾を飲んで念じるパスターカ。
ギ、ギギギギィ。
重たい音がして、扉が開いた。
「やった! やったぞ! 」
自分の呪文の効力があった事に驚いたパスターカは、その場にへたり込んだ。腹の減り具合など、どこかに吹き飛んでいた。
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