どこまでヘタレりゃ気が済むの

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どこまでヘタレりゃ気が済むの

 扉を開けたパスターカは、物怖じせずに王城に入った。 「ゾンビとかスケルトンとか出てくるの、本気で勘弁して欲しいぜ、と言うか、アレ? 俺、アイスナイトにやられたんだっけ? と言うことは、今、俺がゾンビ側なの? 勇者が出てきたら、俺がやられる立場なの? あぁ、人生って分かんないもんだね。痺れるぜ。うっかりしてたらいきなりアンデッド側にいる自分。なんか、泣けるな…… 」  本気で泣こうか、と思いながら王城を進むパスターカ。  武器はない。持ち物は浮遊石のペンダントと身一つ。  アンデッドが物理的攻撃をしかけてきたら、やられる自信は100%の保証付きだ。  城内のあちこちに侵入者除けの(トラップ)が張ってある。  うっかり踏めば、床が抜けて奈落の底まで落ちる、とか。  弓矢や剣が飛んでくる、とか。  どう見ても、モンスターが集まってくる音罠(サイレントラップ)とか。図鑑でしか見たことがない(トラップ)がそこかしこに敷かれている。  集中力が続くか。  不安がチラリとよぎってパスターカは首を振った。  いかんいかん。弱気になれば呪力が落ちる。  (トラップ)を掻い潜りながらなんとか、王の間までたどり着いた。  王の間の一際禍々しい空気。  目には見えないけれど、黒い空気が部屋の中を渦巻いているように感じる。  第六感。  パスターカは、肌で危険を察知した。  玉座に王は居ないのに、黒い空気がパスターカ目掛けて襲いかかってくる感覚。 「守・防・魔怒攻(シュ・ボウ・マドコウ)」  必死に唱えた呪文は、効かなかったのか。  目に見えないが、黒く渦巻いている空気がパスターカを絡め取ろうとする。  息苦しさと四肢の動きを封じられる痛み。 「浮遊石、俺を守れ!」  呪文じゃなく、自分の首に下げられている浮遊石に命じた途端に、ビッグ・グレイが見えた。  ビッグ・グレイは羽ばたきながら、パスターカを大きな足でむんずと掴み、鋭く鳴く。  ビッグ・グレイが来てくれた安心感からなのか、息苦しさは消え、四肢も動かせるようになった。  ただ、掴まれているビッグ・グレイの足爪の力が強く、食い込んで痛い。 「ビッグ・グレイ〜。来てくれて、ありがとう。俺、もうだめかと思ったよ〜。お前は命の恩人だ〜。だけどさ、爪が食い込んで痛いんだよね。俺、腹をアイスナイトに刺されたばっかだからさ」  えへへ、と笑いながらパスターカがビッグ・グレイに説明する。  ビッグ・グレイはパスターカをそっと放した。  パスターカは大きなビッグ・グレイの身体を優しく撫でた。ビッグ・グレイが頭をパスターカに擦り寄せる。  黒い空気は消えていた。 「あれ、なんなんだ? ビッグ・グレイ、おまえ、知っているのか?」  ビッグ・グレイはパスターカの瞳をジッと見つめると、嘴でパスターカの背をグイッと玉座へ押した。  パスターカは、よろけて玉座に座り込む。 「何するんだ、ビッグ・グレイ…………」  玉座に座った途端に、猛烈な睡魔がパスターカを襲う。  パスターカは一瞬で再び意識を手放し、玉座に深くもたれかかった。
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