パスターカが見ているものは

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パスターカが見ているものは

 パスターカはファンファーレの音を聴いた。 「ジリアン王、万歳! ミレーナ王妃、万歳!」  開放された王城の中庭には、バルコニーに出るジリアン王とミレーナ王妃を一目見ようとする聴衆で溢れかえっていた。  皆一様に笑顔を浮かべている。  パスターカはあたりを見回した。  バラやユリなどの花々が美しく咲いている整備された王宮庭園。木々も緑の葉をつけて、生き生きとしている。  活気に満ちた、王城だった。  これは、廃墟になる前の王城なのか。  自分が見ている景色が本当の物なのか、自分が作り出した空想なのか、パスターカには分からない。  そして不思議な事に、すぐ側にいる聴衆たちにもパスターカは見えていないようだった。 「ジリアン王、ミレーナ王妃、ご結婚おめでとうございます!」 「ミレーナ王妃はご懐妊しているそうだぞ。王子か、王妃か、どちらにしても喜ばしいことだな」 「偉大なジリアン王に祝福を! 美しき聖母、ミレーナ王妃に祝福を!」  誰かが言うと、聴衆が喜びに一気に湧く。一際歓声が大きくなった。  そこで、ビッグ・グレイがパスターカの襟を押す。一瞬、目眩にも似たぐらりとする感覚を覚えて目を閉じた。再び瞼を開けると場面が変わっている。  可愛らしいベビーベッドが置かれたその部屋は、きっと子供部屋だろう。  先ほど王宮庭園から見かけたミレーナ王妃が、胸元に赤子を抱いている。  その様子を隣に立って覗き込んでいるジリアン王の表情は、とても優しい。 「人を想う優しく、強い王になるのだぞ」  次にパスターカが見たのは、庭園で駆け回る幼い王子の姿だった。  ミレーナ王妃が王子に庭園の植物について、優しく教えている。  王子は小さな手で、そっと薬草となる葉を摘む。  すぐに場面が変わった。 「業火巨人岩石(インフェルノジャイアントロック)が襲来してきたぞ!」  王の執務室は慌ただしい。 「民を逃がせ! ビッグ・グレイを飛ばせ。隣国パセラ王に魔防要請を!」 「魔力がない我らに物理的にできることはなんだ? 」 「放水準備か。川、湖、あらゆる水場からの放水用意! 急げ、国が燃え尽きぬ内に。民を逃がせ」 「ジリアン王、民と共にお逃げくださいませ。後は我らが食い止めます」  臣下の者たちが、ジリアン王に退避を勧める。  ジリアン王は首を振った。 「ここは、私の国。王が逃げてなんとする。国を救えずして王とは呼べぬ。私はここにいる。そなたらこそ、逃げるがよい」  家臣が一斉に首を振った。 「我らはジリアン王と共に! 」  目まぐるしく変わる場面。  パスターカの眼前には、ジリアン王の心と肉体を支配しようとする黒魔術師と業火巨人岩石(インフェルノジャイアントロック)がジリアン王と対峙している。 「ジリアン王、その身を寄越せ。玉座を寄越せ。私は黒魔術によりパセラを追われた。パセラに仕返しするのだ。ジリアン王に取って代わり、私がこの国の王となる。そして、我を排除したパセラも我が物にするのだ!」  そう言うと黒魔術師は業火巨人岩石(インフェルノジャイアントロック)と一体化する。  業火巨人岩石の体は一層激しく燃え盛り、ゴウゴウと音を立てた。 「悲しき男よ。そんな事をしてもこの国もパセラもそなたの物にはならぬのに」 「だまれっ!!!」  業火巨人岩石は炎で怒りの声をあげた。 「おまえなど、すぐに、取り込んでやる。そして私が王になるのだ」  そう言うと、業火巨人岩石の炎が対峙しているジリアン王を包み込む。  あっという間に炎に飲まれ、業火巨人岩石に取り込まれていくジリアン王。  家臣たちも、どうしたらいいか分からず業火巨人岩石の威力に何も出来ず、ただただ立ち尽くしている。  そこへ風が巻き起こり、ビッグ・グレイが誰かを背に乗せて舞い込んで来た。 「ジリアン王!!!」  ビッグ・グレイの背中から飛び降りたのは、少年姿のナザだった。
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