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黒魔術師と少年ナザ
「オガノラ! きさまっ」
ナザが業火巨人岩石に向き合っている。
ナザは黒魔術士を知っているようだった。
「ナザァ、力もないお前が私をパセラから追い出すとはな。私はお前の兄弟子ではないか」
「ふざけるな! 師のメニを殺害し、師に取って代わろうとしたお前は兄弟子でもなんでもない! お前はやることなすこと、同じパターンだ。殺して、誰かに取って代わる。今だって業火巨人岩石に取り付き、力を増大している。俺はそんなお前のやり方を許さないし、兄弟子とも思わない!」
パスターカが見たこともないほど、ナザからは怒りの青白いオーラが立ち上って揺らめいた。
その時、業火巨人岩石からジリアン王の声が響いた。
「パセラの魔法文官士よ、撃て。私が黒魔術士と業火巨人岩石を押さえ込める間に! 躊躇するな、早く!」
「ググググ…ジリアン王、離せ! なぜ飲み込まれぬのか!小癪なヤツだ、離せっ」
業火巨人岩石の体から、炎が飛び散る。
「吹雪囲守備!」
ナザが素早く唱えると細かい雪の結晶が密集し、ジリアン王の家臣の周りを厚く囲った。雪の結晶は高速で家臣達の周りに動いて、あちこちから飛んでくる炎も寄せ付けない。
飲み込まれたジリアン王が、薄い影のように業火巨人岩石を押さえ込んでいるのが見える。
「父上っ、父上っ、父上ぇぇっ!!!」
その時、ジリアン王の幼い息子が、扉を開けて走り込んできた。
王子を安全な場所へ逃がそうとしたミレーナ王妃と侍女の手を振り切って、父王の元へ寄ろうとする。
国を守るという鉄の意思で、業火巨人岩石を押さえていたジリアン王の意識が僅かに王子に向かった。
その隙を黒魔術士と一体化した業火巨人岩石は見逃さない。
幼い王子目掛けて、炎球を投球しようとする。
「カミリアン!!!」
ジリアン王とミレーナ王妃の叫びが響く。
王子は恐怖で一歩も動けない。
「散砕岩炎・消大炎球、現硬厚氷剣、突刺裂切、業火巨人岩石!!!」
ナザが動いた。幼い王子を庇いながら、オガノラへ呪文を立て続けに飛ばし続ける。
硬厚氷剣が空中に現れ、白い冷気をあげながら|オガノラへ突き刺さる。
オガノラに取り込まれかかり、意思の力でなんとか取り込まれずにオガノラを押さえ込んでいたジリアン王にも突き刺さった。
グォォォォォォォ。
オガノラの断末魔で城の窓ガラスが共鳴し、振動で割れた。
オガノラはまだ倒れずに、玉座に手を伸ばす。
玉座への執念がオガノラを動かしている。
止めようとして藻掻きあうオガノラとジリアン王。息絶え絶えながら、どちらも譲らない。
黒魔術士オガノラを玉座に座らせてはならない。
直感でパスターカは動いた。
見ている自分が参戦できるのかも分からなかったが、動かずにはいられなかった。
「氷粒鋭矢胸貫! 」
パスターカは氷騎士と戦った際の技を思い出した。
氷の矢はオガノラの胸に深く突き刺さっている。
パスターカもパスターカの呪文も見えていないはずのナザが、間髪を入れずにとどめの呪文を唱える。
「滅・黒魔術消失・封印!」
業火巨人岩石、オガノラ、ジリアン王の魂は別れた。
業火巨人岩石は倒れ付して、動かない。その体から発していた炎もブスブスと音をたて、消炎していた。
穏やかで笑みを浮かべたジリアン王の魂がナザに話しかけた。
「ナザ・キロア。ありがとう。残念ながらオガノラの執念は強すぎて、この国から離れない。オガノラごとこの国を封印しては貰えないだろうか。そして、この国の民と私の愛する家族を、パセラに入れては貰えないだろうか。私はここでオガノラを見張ろうと思う」
「父上……」
恐る恐る側に寄って来たカミリアン王子の頭を撫でようとして、ジリアン王は手を引っこめた。
「父は、そなたらを愛しているぞ」
そう言うと、ジリアン王は黒い気体となったオガノラの意識と共に、空に消えた。
ナザは泣きじゃくるカミリアン王子を臣下に託し、空間封印の呪文を口にした。
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