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ワーカフリ国民は植物の育成が上手い
「そんな事が……」
ナザの執務室に移動し、パスターカの話しを聞いた一行は、ナザとカシリアを除いて、信じられないといった面持ちを浮かべている。
ナザの様子を伺い、頷いたのを確認してから、カシリアが口を開いた。
「パスターカくんが見てきたものは、過去の情景です。私は封印されたワーカフリ国の王子で、本当の名をカミリアンと申します。皆さんを騙すつもりはなかったのですが……」
カシリアはそう言って頭を下げた。
「偽名を使うよう指示したのはオレだ。オガノラが復活するのか、残党がどこにいるのかも分からなかったからな。だから王宮ではなく、私の家で偽名を使って働いて貰っていたんだ」
ナザが説明を付け加える。
「なんとなくは、分かっていましたよ。カシリアがワーカフリの民だと言うことは」
チルがカシリアを見ながらナザに言って、微笑んだ。
「ワーカフリの民は魔力を持たない。その代わり、植物に対する造詣が深く、育成や効能を組み合わせた薬湯を作る能力が高い。カシリアは見事にそれに当てはまっていたからの」
チルの言葉にカシリアは照れくさそうに笑った。
「幼い頃、父王や母から植物について教わっていましたから。その時は悔しいくらい幼くて、覚えるのが必死なくらいでしたが」
パスターカは庭園にいたジリアン王とミレーナ王妃、楽しそうな幼いカミリアン王子の姿を思い出した。
あのまま平和に時が過ぎれば良かったのに。
「パスターカがビッグ・グレイに連れられて、封印されしワーカフリ国に行き、過去を見たと言うことは、オガノラが何らかで覚醒しているのかもな」
ナザの言葉に、サリが頷いた。
「そう考えるのが妥当でしょうね。オガノラが覚醒し始め、モンスターを作り出し、パセラに向かわせる。封印から目覚めたオガノラ自身の力がないから、最初は操れるモンスターのレベルも低い。ここ最近、レベルの高いるモンスターが出現すると言うことは……」
サリの言葉に一同声を失う。
「じゃあ、また倒して封印すればいいのか、オガノラってヤツを」
あっけらかんと言い放つパスターカに、サリが苦笑した。
「パスターカくん、若かったとは言えナザの力をもってしても、オガノラを倒せなかったんですよ」
「それは、ナザが一人で戦っていたからで。今度は、」
と言いかけて、パスターカは人差し指を掲げぐるりとその場にいる全員を指差す。
そのパスターカの指をキトが、失礼だぞ、と叩いた。
エヘヘと笑ってパスターカは続ける。
「皆が揃ってる。ナザ一人じゃないから。ナザが一人で封印できたなら、みんなで戦えば倒せると思うんだよね」
パスターカの言葉にカシリアが微笑んだ。
「オガノラが作り出したモンスターに倒れたパスターカ君とオガノラ封印の鍵となっている父が意識化で共鳴して、パスターカが過去を見たのかと思ったけれど、違うようだな。そんなパスターカだからこそ、父は君を呼んだんだ」
「カシリア、お前はもう子どもじゃない。オガノラ討伐に参加するか? 自身で決めろ」
ナザの言葉にカシリアが頷いた。
「敵を討ちます。そして、父を解放し、玉座を取り戻します!」
真っ直ぐにナザを見つめ、答えるカシリア。
その肩をパスターカが抱いた。
「おう。頑張ろうぜ! ところでカシリアとカミリアン、どっちで呼んだらいい?」
「カシリアに決まってるだろ! ナザの話し聞いてたか?」
パスターカは悪気なく、「なんで?」と思う発言をすることがある。
最早パスターカを叩く気力のないキトはパスターカに尋ねた。
「え?だって、そう言うのは本人の気持ちが大事だと思ってさー。ここにいれば安全ではあるわけだろ?偽名っつーのもツライかな? と思って。俺だって、パスターカじゃなくて、鶏ガラスープとか呼ばれたら悲しいもんな」
大真面目に答えるパスターカに、キトは脱力した。
いつの間にか場が和み、気負いが解けた。
カシリアは笑いながら、パスターカに答えた。
「鶏ガラスープという名だったらちょっと考えたかも知れないけど。僕はカシリアでいいよ。気に入ってる名前だから」
偽名名付け親のナザは、カシリアの言葉に、ふと微笑んだ。
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