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兄弟子オガノラ
「ったく! ナマイキなんだよ。歳下のくせに」
ナザ・キロアは、胸ぐらを掴まれて宙吊りにされていた。
成績の良いナザは飛び級制度を利用し、八歳で最高学年にいた。筆記、口頭、実技、どの科目でも常にトップの成績を誇っている。
大戦で親を亡くしたナザは才能を見初められ、魔法文官長のメニの元で弟子として学んでいた。
メニの元で先に弟子として学んでいたのが、ナザより八歳年上のオガノラ・ハーツだった。
師であるメニは、二人に愛情を注いでくれたが、優秀なナザをより褒めた。
オガノラはそれが気に食わず、事ある事にナザに嫌がらせをするのだが、魔術力が上のナザには敵わず、失敗に終わっていた。
ナザの試験時に、筆記用具の消失呪文をかける。
ナザは難なく、現わし呪文で筆記用具を出した。
生物学の時間には、ナザの育てた植物に海水をかけて枯らした。
ナザは、蘇り呪文によって枯れた植物を元通りにした。
ナザへの嫌がらせなのに、周囲がナザの魔術力を褒めそやす。
敬愛していたメニの目は、最近はナザにしか向いていない。オガノラのくすぶった怒りは、日ごと蓄積して行った。
魔術力ではナザに敵わないオガノラは、物理的にナザに攻撃した。体格が倍以上違うナザの腹に拳を叩き込む。
呪文で止めることもできたが、ナザはそうしなかった。物理的にでも怒りを発散させたほうがいいと判断した。そして、殴られた跡は自分で治癒呪文をかけ、師であるメニに心配や迷惑がかからないよう細心の注意を払った。
ところが、オガノラは怒りを発散するどころか、怒りに取り憑かれていった。
いつか分かって貰えると心のどこかで信じていた事は、許されざる永遠の過ちだとナザは今も思っている。
オガノラは相手を呪う呪術に傾倒していった。
それに気づいたのが、ナザが王城に出かけていて家を留守にしていた時だった。
オガノラの呪咀に気づいたメニは、呪咀解除の呪文を施した。皮肉な事に黒魔術はオガノラの本来の性質と合っていたらしく、彼の黒魔術力のレベルはとても高かった。
メニは呪咀を解除できず、発動した呪詛により、結果的に命を落とした。
王城から一緒に戻ったサリがナザに強力してくれて、オガノラはパセラを追放された。
追放だけでは生ぬるかったのに。
それがメニの遺言だったから、従わざるを得なかった。メニ、なぜ? ナザはその点において、今でも理解ができない。メニの気持ちを思うとチクンとささる胸の痛みを感じた。
自分を殺したにも関わらず、メニは最後までオガノラを愛していた。
パスターカたちと話した後ナザはそっと一人で、師匠であるメニの墓を訪れ、メニの愛したマーガレットの大きな花束を手向けた。
メニ。オレは。
あなたとの約束を破るかも知れません。
あなたの願いをなかった事にするかも知れません。
心の内で呟くナザの表情は、苦しげだった。
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