パスターカは唇を尖らせ、呪文構文を知る

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パスターカは唇を尖らせ、呪文構文を知る

「そもそも、現存の魔法呪文て、動作一文字が多いよな」   パスターカは分厚い魔法呪文書をめくりながら呟く。魔法呪文は願いや、起きて欲しい状態の明確な言語化。戦いの最中、言いづらい、分かりにくい言葉は呪文としての効力が低く、結果として言いやすい、使いやすい、覚えやすい一文字の呪文が残ったのだろう。  砕、溶、解、消、など職種を超えて使える呪文が基礎呪文。  ナザが偉大な魔法文官士と呼ばれるのは「(あらわし)」の呪文を考えた最初の人だから。  パスターカが最初にナザと出会った時、ナザはソルト・ゴーレム相手に「現海」の術を使っていた。  普段側にいて考えても見なかったけど……。改めてあの人、すごい人なんだな。  ページをめくる毎にナザの偉業が分かる。  ナザは自分を褒める本が恥ずかしいのか、屋敷の図書室において、禁忌の術をかけて隠していた。  勉強したいと申し出たパスターカの為に、サリが図書室の禁忌の術をそっと解除した。  サリが禁忌の術を解除したとたん、今まで見ていた倍以上の蔵書が現れた。  空間も広がって国立図書館くらいの広さになった。  術をかける事で名を馳せるナザのような文官士もいれば、術を解く能力に長けた文官士もいる。  それが、サリだった。 「ふぇ〜、あの二人、すげぇな。俺もここに載るくらい、名をあげるぞ!」  意気込みながらページをめくるパスターカの指が止まった。次の一文を見つけたからだった。 『物を空間に物理的に(あらわ)す術というのは誰でも出来るものではない』 「あれ? そうなの? 俺、できたよね」 「現」の呪文は誰もが使える物ではない。  パスターカは使えた。  と言うことは、パスターカの文官士としての特性は、呪文解除ではなく呪文をかける方。 「まぁ、それが分かったところで、強力呪文を思いつかないんだから、まだまだ道のりは遠いよね……」  パスターカは唇を尖らせた。  そしてまた考える。 「此処には古から考えられた強力呪文がすべて、載っている。逆に言うと載っていない呪文は、強力じゃない。それか、新しい呪文? まさか。まさかね。でも、それなら俺、できるんじゃない?」  気づいた考えに、パスターカは笑みを浮かべた。  キトが側にいたら、呆れて大きなため息をお見舞いされていたかも知れない。  試しにやってみる。 「現溶・朱古力(ゲンヨウ・チョコレート)!」  チョコレートを現わして溶かす。 「現わし」と「溶かし」を組み合わせた。  パスターカの眼の前にポゥッとした光とともに、ホットチョコレートが現れた。 「やっ……たぁ!!!! やっぱり、できたー!!!」  古からの強力基礎呪文を組み合わせて、新しい呪文を作れるかも知れない。  ホットチョコレートを飲んで見る。  ほろ苦く甘い。  れっきとしたホットチョコレートだった。  呪文は成功と言っていい。  パスターカは自分の可能性が広がった事を感じて小躍りした。  その手法は「使いまわし」というのだが。  広がった可能性に浮かれているパスターカは、気にも留めないようだった。
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