オガノラがワーカフリを狙った理由

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オガノラがワーカフリを狙った理由

「相変わらず、禍々しい空気を纏っているな」  かつてはワーカフリ国だった廃墟に立ち、ナザが呟いた。  カシリアは唇を噛みしめて、生まれ育った故国を見つめている。  パスターカの浮遊石がワーカフリに着いてから、ずっと青く光を放っている。 「あぁ、同調していますね」  サリの言葉にパスターカは首を傾げる。 「同調?」 「ワーカフリは浮遊石の産地なのですよ。ワーカフリ山、カフリ川、ワーカー砂漠には、莫大な浮遊石が眠っているのです。ここはワーカフリ山にほど近い場所ですし、浮遊石同士が共鳴すると発光する性質を持つ鉱物なので、パスターカくんの浮遊石も光っているのでしょうね」  サリの説明にパスターカは納得した。 「さすが、宝石商の息子だな、サリ」  ナザがサリを誂う。 「確かに私の親は宝石商でしたが、これは一般常識ですよ、ナザ。皆に私の出自を説明させようとしていますね」  笑いを含みながら、サリは少しだけナザを睨む。 「私の両親は宝石商を営んでいました。中でも浮遊石の加工には力を入れていたのです。浮遊石というのは魔力のある石ですが、原石のままだと魔力を発揮する力は弱い。石自らが魔力を封印していると言うのでしょうか」 「サリの両親は浮遊石の魔力を高める加工の腕が随一で、ワーカフリのジリアン王御用達の宝石店だったんだよな」 「私の両親は、サリのご両親を信頼していました。悪質な粗悪品が市中に出回らないよう、ワーカフリ山の採掘量管理など、サリのご両親に委託していたのです」  サリの事情については、親友のナザ、ワーカフリ国王子のカシリアで共有しているようだ。  苦い表情を浮かべ、カシリアが続けた。 「サリのご両親は信頼に値する人物でした。公明正大な人柄でしたので、パセラ人とは言え、ワーカフリ国でも多くの人が慕い、頼っていたんです」  話しながら、カシリアの肩が小刻みに震える。  息を大きく吸い込んで、話し始める。 「そのせいで、サリのご両親はオガノラに狙われました。浮遊石全てを我が物にせんと、オガノラはワーカフリとサリのご両親を襲ったんですっ…………」  吐き出すように言って、歯を食いしばる。 「私の国に関わらなければ! 私の国のせいで!」  俯いて肩を震わせるカシリアの背に、サリが優しく手を置いた。 「私の両親が襲われたのは、カシリアくんのせいではありませんよ。彼らの命がそこまでだったのであれば、それは天命です。気に病むことはありません。ジリアン王夫妻には、お引き立ていただいたご恩こそあれ、恨むことなど一度もないのですから」  カシリアは項垂れたまま、力なく頭を下げた。  パスターカは自分の胸に、怒りが灯るのを感じた。ナザの師匠、サリの両親、カシリアの両親であるワーカフリ国王夫妻と国民。  自分の欲望のためにどれだけの人を、傷つけ、悲しませるのだろう。  絶対に許さない。  パスターカは、ナザやサリ、カシリアの気持ちを慮り、静かに怒りを込めた目で王城を見据えた。  そんなパスターカをキトがじっと見つめていることに、パスターカは気づかなかった。
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