29人が本棚に入れています
本棚に追加
現れ目覚めたオガノラと副将、巨大吸血蜘蛛
ナザの呪文によって、黒い煙の中からオガノラが現れた。
目を閉じて眠っているようにも見える。
「死ぬまで眠らせておきたかった。またお前の姿を見ることになるとはな」
ナザの言葉にオガノラが目を開けた。
朱色の瞳にナザが映る。
「久しいな。ナザ。また自分の正義を振りかざし、やってきたか」
「幾星霜を経てなお、己が才覚なしと自覚もせず、玉座にしがみつき、ただいたずらに他者のせいにして傷つけていく。愚かな人生だな」
ナザの言葉を聞いたオガノラが顔を歪ませ、ナザに向かって手を突き出す。
「貫焼殺・光束」
赤黒い光線がナザに向かう。
「消魔・散呪文」
ナザに向かった光線が砕け散った。
ナザに向かいながら、オガノラが呪文を放つ。
オガノラが呪文を放つ速さは尋常じゃないほど速い。同時に三方向に呪文が飛ぶ。
「締絡・粘糸巣・縛体不解」
玉座の間にいつの間にか張られていた不快な蜘蛛の巣が、天井から降りて来た。
すかさずサリが呪文で祓おうとするが、ナザとオガノラの戦いに気を取られ、一瞬遅れた。
サリの呪文は跳ね返され、光の欠片となって床に散っていく。
蜘蛛の糸は、サリ、チル、キト、カシリアをギリギリ、ぐるぐると締め付けるように簀巻きにしていく。
ナザは次々、呪文を放つオガノラに対峙しており、助けに入れない。
ギリギリと巻かれて行くサリたちを見ながら、オガノラが舌なめずりする。
「聖賢人様の呪文は、美しいねぇ。私には全く効かないが。君のその綺麗な顔を歪ませられると思うと、ゾクゾクするな。君たちの養分は、私の分身巨大吸血蜘蛛が吸い付くす。私は、お前たちを取り込んで甦るのだ!」
オガノラの声と共にゴソリ、ゴソリと耳障りな音がして、天井の隅から巨大な吸血蜘蛛が姿を表した。
前脚を擦り合わせて糸を手繰る。
絡まったサリたちは強い糸でぐるぐると巻かれ、身動きが取れない。
呪文を呟けないように、顔や頭までミイラのように巻かれて行く。
「凍結・巨大吸血蜘蛛」
パスターカが巨大吸血蜘蛛に向かって呪文を放つが跳ね返される。
ビッグ・グレイがパスターカを乗せて巨大吸血蜘蛛に向かう。
パスターカは腰につけていた短刀に何かを塗りつけ、呪文を呟き巨大吸血蜘蛛目掛けて短刀を放った。
「刺内砕刃・毒廻蜘蛛・内部爆発!」
短刀は真っ直ぐに巨大吸血蜘蛛に飛んで行き、振り上げた前脚に刺さった。
前脚の長さだけでパスターカの背くらいありそうだ。パスターカは、恐怖を感じまいと堪えた。
短刀が刺さった瞬間、巨大吸血蜘蛛の前脚がピン、と伸びた。
光を放ち、短刀が蜘蛛の前脚にめり込んで行く。
藻掻く巨大吸血蜘蛛。
やがてめり込んで見えなくなったパスターカの短刀が、巨大吸血蜘蛛の脚の中で砕け散った。
蜘蛛の前脚が吹き飛んで、ドサリと床に落ちる。
どす黒い紫色の血液を吹き出しながら、巨大吸血蜘蛛が藻掻き、怒りを放つ。
蜘蛛が尻を持ち上げながら、大きな糸を吹き出した。糸はビッグ・グレイの羽に絡まる。
ビッグ・グレイが羽の動きを封じられ、急降下し、床に体を打ち付けた。
「ビッグ・グレイ!!! 大丈夫かっ、くそっ、この糸切れない」
叫ぶパスターカにナザが呪文を飛ばす。
「裁断・強烈魔法糸!」
しかし、巨大吸血蜘蛛の糸には、全く呪文が効かない。
ナザと対峙しながら、振り向きもせずにオガノラは、身構えていたパスターカを指差す。
「おい、落ちこぼれ! 聞け! おまえ、ナザにこき使われているだろ。友人とは言え優秀な仲間に、バカにされ、笑われる。悔しくはないのか? 今だって全く効かない呪文を繰り広げ、仲間の足を引っ張っているんだ。 他の奴らはお前さえいなければ蜘蛛の餌食にはならなかったと、そう思っているようだぞ。パスターカ、お前は落ちこぼれだ。ここにいるみんなが、思っている。パスターカ、何もできないお前は落ちこぼれだ。
『増魔・増怒・増悔・増憎!』」
呪文を唱えているナザの瞳が燃えるように赤い、とパスターカは思った。
「駄目だ! パスターカ! オガノラの言葉を聞くんじゃないっ!瞳を見るなっ!」
悲鳴にも似た声で、ナザがパスターカに叫ぶ。
その瞬間をオガノラは見逃さなかった。
ナザに向け、空間から取り出した黒い剣を突き刺す。オガノラの黒い剣はナザの胸深く突き刺さった。
最初のコメントを投稿しよう!