現れ目覚めたオガノラと副将、巨大吸血蜘蛛

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現れ目覚めたオガノラと副将、巨大吸血蜘蛛

 ナザの呪文によって、黒い煙の中からオガノラが現れた。  目を閉じて眠っているようにも見える。 「死ぬまで眠らせておきたかった。またお前の姿を見ることになるとはな」  ナザの言葉にオガノラが目を開けた。  朱色の瞳にナザが映る。 「久しいな。ナザ。また自分の正義を振りかざし、やってきたか」 「幾星霜を経てなお、己が才覚なしと自覚もせず、玉座にしがみつき、ただいたずらに他者のせいにして傷つけていく。愚かな人生だな」  ナザの言葉を聞いたオガノラが顔を歪ませ、ナザに向かって手を突き出す。 「貫焼殺・光束(カンショウサツ・ビーム)」  赤黒い光線がナザに向かう。 「消魔・散呪文(ショウマ・サンジュモン)」  ナザに向かった光線が砕け散った。  ナザに向かいながら、オガノラが呪文を放つ。  オガノラが呪文を放つ速さは尋常じゃないほど速い。同時に三方向に呪文が飛ぶ。 「締絡・粘糸巣・縛体不解(テイラク・ネンシソウ・バクタイフカイ)」  玉座の間にいつの間にか張られていた不快な蜘蛛の巣が、天井から降りて来た。  すかさずサリが呪文で祓おうとするが、ナザとオガノラの戦いに気を取られ、一瞬遅れた。  サリの呪文は跳ね返され、光の欠片となって床に散っていく。  蜘蛛の糸は、サリ、チル、キト、カシリアをギリギリ、ぐるぐると締め付けるように簀巻きにしていく。  ナザは次々、呪文を放つオガノラに対峙しており、助けに入れない。  ギリギリと巻かれて行くサリたちを見ながら、オガノラが舌なめずりする。 「聖賢人様の呪文は、美しいねぇ。私には全く効かないが。君のその綺麗な顔を歪ませられると思うと、ゾクゾクするな。君たちの養分は、私の分身巨大吸血蜘蛛(ジャイアントヴァンパイアスパイダー)が吸い付くす。私は、お前たちを取り込んで甦るのだ!」  オガノラの声と共にゴソリ、ゴソリと耳障りな音がして、天井の隅から巨大な吸血蜘蛛が姿を表した。  前脚を擦り合わせて糸を手繰る。  絡まったサリたちは強い糸でぐるぐると巻かれ、身動きが取れない。  呪文を呟けないように、顔や頭までミイラのように巻かれて行く。 「凍結・巨大吸血蜘蛛(トウケツ・ジャイアントヴァンパイアスパイダー)」  パスターカが巨大吸血蜘蛛に向かって呪文を放つが跳ね返される。  ビッグ・グレイがパスターカを乗せて巨大吸血蜘蛛に向かう。  パスターカは腰につけていた短刀に何かを塗りつけ、呪文を呟き巨大吸血蜘蛛目掛けて短刀を放った。 「刺内砕刃・毒廻蜘蛛・内部爆発(シナイサイハ・ダイカイスパイダー・ナイブバクハツ)!」  短刀は真っ直ぐに巨大吸血蜘蛛に飛んで行き、振り上げた前脚に刺さった。  前脚の長さだけでパスターカの背くらいありそうだ。パスターカは、恐怖を感じまいと堪えた。  短刀が刺さった瞬間、巨大吸血蜘蛛の前脚がピン、と伸びた。  光を放ち、短刀が蜘蛛の前脚にめり込んで行く。  藻掻く巨大吸血蜘蛛。  やがてめり込んで見えなくなったパスターカの短刀が、巨大吸血蜘蛛の脚の中で砕け散った。  蜘蛛の前脚が吹き飛んで、ドサリと床に落ちる。  どす黒い紫色の血液を吹き出しながら、巨大吸血蜘蛛が藻掻き、怒りを放つ。  蜘蛛が尻を持ち上げながら、大きな糸を吹き出した。糸はビッグ・グレイの羽に絡まる。  ビッグ・グレイが羽の動きを封じられ、急降下し、床に体を打ち付けた。 「ビッグ・グレイ!!! 大丈夫かっ、くそっ、この糸切れない」   叫ぶパスターカにナザが呪文を飛ばす。 「裁断・強烈魔法糸!」  しかし、巨大吸血蜘蛛の糸には、全く呪文が効かない。  ナザと対峙しながら、振り向きもせずにオガノラは、身構えていたパスターカを指差す。 「おい、落ちこぼれ! 聞け! おまえ、ナザにこき使われているだろ。友人とは言え優秀な仲間に、バカにされ、笑われる。悔しくはないのか? 今だって全く効かない呪文を繰り広げ、仲間の足を引っ張っているんだ。 他の奴らはお前さえいなければ蜘蛛の餌食にはならなかったと、そう思っているようだぞ。パスターカ、お前は落ちこぼれだ。ここにいるみんなが、思っている。パスターカ、何もできないお前は落ちこぼれだ。 『増魔・増怒・増悔・増憎(ゾウマ・ゾウド・ゾウカイ・ゾウゾウ)!』」  呪文を唱えているナザの瞳が燃えるように赤い、とパスターカは思った。 「駄目だ! パスターカ! オガノラの言葉を聞くんじゃないっ!瞳を見るなっ!」  悲鳴にも似た声で、ナザがパスターカに叫ぶ。  その瞬間をオガノラは見逃さなかった。  ナザに向け、空間から取り出した黒い剣を突き刺す。オガノラの黒い剣はナザの胸深く突き刺さった。
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