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魔法文官士パスターカ 3
自分は普通だと思っていた。
特に優れているわけでもなく、何にも出来ない訳でもなく。
ただ日々をあるがままに過ごし、何事もない毎日をそれはそれで楽しんでいた気がする。
なのに、いつの間にか「落ちこぼれ」になっていた。やっても、やってもできない。敵わない。
自分は落ちこぼれではない。
自分だってできる。
なのに、なんでもできる人が眼の前にいる苦しみ。
身近にいて、家族のようで大好きな人。
その人は、若い頃から苦労しないでできると言う。なんで自分にはできないのだろう。
人と比べて、落ち込む。自分の良さを自分で打ち消して行く。その人は、こちらを下には見ていない。やればできるとハッパをかけているだけ。
だけど、なんとか見てもらいたい。なんとか分かってもらいたい。肩を並べていたい。
そんな想いに囚われて、行動全てが絡め取られて行く。それでもままならない現実。
認めたくはないけれど、自分は落ちこぼれ。
嫌と言うほど、突きつけられる。
落ちこぼれ。
嫌な言葉。
ちょっとニガテな事があるくらいなのに。
ちょっと出来ないことがあるだけなのに。
落ちこぼれ。
社会不適格者のような、社会からつまみ出されるような、そんな言葉。
あまりに能力がある人といると、自分に「落ちこぼれ」の呪文をかけてしまう。
あまりにも似た境遇が、オガノラとパスターカを意識化で繋げた理由だったのだろう。
パスターカはそう考えた。
「もう、終わりにしよう。メニはずっと君を愛していたよ。君の呪文で殺されて、なお」
「私は、落ちこぼれではない! 一緒にするな!」
「落ちこぼれと思っている俺の言葉に耳を傾けた、それが君の本心ではない?」
パスターカの素直な言葉と優しい話し方にオガノラは一瞬躊躇う。
邪悪な自分に、こんなに穏やかに話しかけてくる者は、封印される前にも後にもいなかった。
「お前は不思議なヤツだな」
ポツリとオガノラが呟いた。
もっと早く会いたかったかも知れない。
言葉に出さない想いは胸に、しまった。
オガノラは、両手をダランとおろしてパスターカの前に神妙に立つ。
パスターカは微笑んだ。
「オガノラ。俺ねずっと考えていたんだ。君を封じ込めていいのだろうか、って」
オガノラは今度こそ本当に絶句した。
コイツは何を言っているんだ。
自分のために、いくつもの命を奪った。
パスターカですら、殺そうとした。
「メニの最後の願いを無駄にしたくない。メニとの約束をナザに破らせたくない。カシリアに、敵討ちをさせたくない。だってそれはきっと生きて行く上で、苦痛になる。オガノラの呪術にかかって生きて行くようなものだし」
パスターカの言いたいことが分からずに、オガノラは朱色の瞳でじっと見つめる。
「と言ってもさ、このままには出来ないんだ。君は自分のしたことの責任を取らなければならないから」
あぁ、とオガノラが頷く。
己が消えても、罪が消えることはない。
パスターカとこの不思議な空間で話し始めてから、オガノラは自分の心持ちが変わった事に気づいた。あんなに執着していた玉座にはもう、なんの興味もなくなっていた。
己が消えるというのに、穏やかな気分であることに、オガノラは戸惑った。
だがそれは、長らく感じた事のない気持ちの良いものだった。
「オガノラ、これから、君の能力を無効化させる。そして、ある所に君を封印する。それは、君の意識が消えるかも知れない。でも、君は死なない。きっと苦しく、もどかしい。それは君が償って行かなければ罰だと思って欲しい」
穏やかに微笑んだパスターカに、オガノラが頷いた。
パスターカが自分に与える罰がなんなのかは、ちっとも分からなかったが。
「オガノラは俺の中に封印する!」
ハッキリと宣言したパスターカに、オガノラは目を見開いた。
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