魔法文官士パスターカと大将オガノラ

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魔法文官士パスターカと大将オガノラ

「俺の中にオガノラを封じる。能力を失った君の意識は俺と融合し、消えるかも知れない。でも。これから先は、俺と生きて行こう」  オガノラの見開いた瞳に、涙が浮かんだ。 「お前は俺を受け入れるのか? 皆から嫌われている俺を……」 「勘違いするな。受け入れる訳じゃない。俺の身体は俺のものだからそこに君の意思はない。だけど、」  パスターカはそこで言葉を切った。 「罪を償って、新しく生きていくことはできる。俺は君を二度と出すことはしないし、できない」  どこからともなく、トコトコとビッグ・グレイが歩いて来た。  パスターカとオガノラの前に、立つ。 「ビッグ・グレイ。お前はこの国の祖であり、鍵なんだよね。手伝ってくれるか? ワーカフリの未来のために」  返事をするかのようにビッグ・グレイが「クァァ」と短く鳴く。  パスターカがオガノラの前に立ち、唱える。 「我求融合・永遠光包・優気新進(ガキュウユウゴウ・トワコウホウ・ユウキシンシン)、パスターカ・オガノラ!」  オガノラが一瞬ためらい、そして、同じように呟く。 「我求融合・永遠光包・優気新進(ガキュウユウゴウ・トワコウホウ・ユウキシンシン)、パスターカ・オガノラ!」  ビッグ・グレイが二人の前に立ったまま、羽ばたいた。  飛ばされそうなほどの突風。  竜巻のような上昇気流が起こり、パスターカとオガノラはその気流に飲み込まれる。  二人の身体が風と光に包まれた。  強い風と遠心力で目を開けて居られない。  身体も自分ではどうにもならない。  風と光の中で、パスターカは誰か二人の声を聞いた。 「パスターカ、ありがとう」 「すまなかった」  永遠に続くのではないかと思われた突風は、突然やんだ。  空中に舞い上げられていたパスターカの身体はゆっくりと降りていき、やがてストンと地上に降り立った。  オガノラもビッグ・グレイも居ない。  でも、パスターカには分かった。  自分がオガノラと溶け合った事を。 「消包広空間・解錠玉座間(ショウホウコウクウカン・カイジョウギョクザマ)!」  パスターカが唱えると、オガノラ、ビッグ・グレイと対峙していた玉座の間の魔法空間が消えた。  ナザ・サリ・チル・キト・カシリアが心配そうに立ち、魔法空間からパスターカが戻るのを待っていた。 「ただいま!」  パスターカ笑顔で言うと、ナザが近づいて来た。  パスターカの顔をじっと見る。  そしてパスターカを無言で抱きしめた。  パスターカからオガノラとの最後の闘いの顛末を聞いた一同は、複雑な表情となった。  少しだけ重くなった空気を一新したのは、サリだった。 「頑張りましたね、パスターカくん。君ならできると私は思っていましたよ、ナザ、パスターカくんが心配だからと言って、そんな顔をするものではありません。メニの願いを無駄にせずに済んだじゃないですか。ワーカフリの鍵であるビッグ・グレイが認めて協力した封印呪文ですから。きっと、大丈夫です」  サリが優しく微笑んだ。 「ワーカフリを浄化してくれて、ありがとう。パスターカ。君がオガノラを封印したとき、私は久しぶりに父王に会ったよ。父もオガノラの呪縛から解放されたんだ。ワーカフリの後継者として、お礼を言うよ」  カシリアがそう言って、パスターカを抱きしめる。 「これから、どうするんだ?」 「呪いが解けたからね。この国を再建しようかと思う」  ナザが頷く。 「それがいいな。パセラ王に報告し大大的に告知すれば、ワーカフリの国民も戻りやすかろうし。これからが大変だろうが、我々はいつも君の力になろう。カミリアン王」  カシリアが涙を浮かべてナザの前に跪く。 「ナザ、長きに渡り私を守護してくれていたことを感謝します」  チルが涙ぐんでナザとカシリアを見ている。  それに気づいたカシリアは立ち上がり、チルに頭を下げた。 「私の薬師としての師匠はあなたです。偉大なる癒し手チル」 「年を取ると涙もろくなってかなわんな」  チルが泣き笑いし、カシリアの肩を抱いた。  そっとパスターカに近づいたキトは、パスターカに不正顔で文句を言う。 「まったく、君は一人で無茶するよね。いつだって友だち甲斐がないし」 「キトがいたから、今回の決断ができたんだよ。何かあったら、キトが助けてくれるだろ?」 「何かあったら、遅いんだよ!」  そう言いながらキトは笑顔を見せた。 「まぁ、絶対に助けるけどね」
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