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キトの執筆した冒険談がベストセラーとなっている
「玉座の間に入ってすぐに、賢人サリがオガノラの呪術にかかった広間に、更に魔法空間を広げたのです。オガノラも気づかないほどの早業でした。
巨大吸血蜘蛛がいたことは事実でしたが、オガノラの目に映っていた、ナザやサリたち一行が捕らえられている光景は、幻影呪文だったのです。
パスターカがオガノラと対峙している間、癒し手チルとキトはパスターカに気力を送り続けていました。
ナザはオガノラが魔法空間に気づかないよう、呪文をかけ続け、サリはその間に、ワーカフリ城にかかっていた呪詛を、オガノラから守っていたワーカフリ王と王子カミリアンと共に解いていたのです。
パスターカは最大の勇気を振り絞って、オガノラに対峙しました。
落ちこぼれの自分にできるのかと悩みましたが、パスターカは心からの言葉を、オガノラと交わす事によって、少しずつオガノラに呪文をかけて行きました。
そうです。
パスターカがオガノラに語りかけた言葉こそが、パスターカの魔法呪文だったのです。
パスターカが行ったのは、会話型呪文と言うものでした。
会話をしながら、相手に自分自身で自分の罪を悟らせ、正しい方向に導くという高度な呪文です。
パスターカの言葉の魔法によって、黒い魔法から解き放たれたオガノラは、輝く光となり、自分の呪術能力を手放し、パスターカと共に生きることを選んだのでした。
その見届け人となったビッグ・グレイはパスターカとオガノラの意思を受け止め、ワーカフリの鍵である自身の力の全てを使い、パスターカの呪文を完成させたのです。
力を使い果たし、消滅したかのようなビッグ・グレイは、呪文成就の鍵となりました。
パスターカの呪文が成就したのはビッグ・グレイの守護があったからにほかなりません。
王子カミリアンは立派に跡を継ぎ、ワーカフリの王となりました。
パセラに避難していたワーカフリの国民たちは喜んでワーカフリに帰ります。
パセラには、緑豊かで輝く町並みが戻ってきました。商店も次々に開店し、今日も活気があります。
ビッグ・グレイの祝福と加護を受けたワーカフリは優しく賢いカミリアン王と共にこれからもパセラの友人として栄えて行くことでしょう。
オガノラと一体化したパスターカはどうなったのでしょうか。
ご安心ください。
彼は元気です。
今日も、新しい呪文ができないか首を捻っていることでしょう。
パスターカは、あなたです。
出来ない、と悩んでいるあなたは
パスターカの物語を一度、思い出してください。
きっと、前を向く事ができると思うのです。
パセラとワーカフリの永遠の友情を。
関わった多くの人への感謝をこめて。 」
なぜか音読しているパスターカは、読み終わってため息をついた。
「キトの話は、子供でも読めるようによく書けていると思うんだけどさ、俺、本を読んだ街の子供たちからオガノラを喰ったモンスターだと思われてるみたいで……」
パスターカのボヤキにクスッと笑ったキトを見て、パスターカが続ける。
「キトの書き方は、若干悪意があるよね。やっぱり俺が最初に思った通り、ある事無いこと、面白おかしく書きやがって」
パスターカの文句に、キトは堪えきれずに声をたてて笑い出した。
「おーい、休憩時間はとっくに過ぎておるぞ!」
チルの呼びかけに、中庭でキトの本を読んでいた二人は、治療院室、執務室へと走り出した。
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