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チーム探しの声がかからないんだけど?
適正試験は魔法学校の卒業試験。
職業カードを手にした生徒たちは、晴れて社会人となり、実践のためにチームを組んで活動する。
教室では朝からチームメイト探しが始まっている。レベルが上の社会人チームはなかなかひよっこを入れてくれないし、レベルが同じ方が、挑戦できるクエストも同じだし、という理由で。
しかし、パスターカには一向に声がかからない。
一方キトは朝から10程のグループに声をかけられている。
「キト。君がチームに入っていないのなら、うちのチームに入らないか? うちは剣士、武道家、弓使い、料理師、魔道士がいて、バランスがいい。これで癒し手がいれば完璧だ。君に入って欲しいんだ」
キトは、笑みを浮かべると首を振った。
「ごめんよ。僕はもうチームを組んでるんだ」
キトを誘っていた奴は悔しそうだ。
「くっそ! 出遅れたか! 」
パスターカは自分の席に座り、その様子を見ながら、ため息をついた。魔法文官は冒険に出ても活躍する場所がない気がする。普段の仕事はどうやればいいのだろう。
疑問が解けず、手元のタブレットを弄る。
魔法文官について、と検索してみた。
「魔法文官は、魔法上級者となるべき者が与えられる職業である。全職業の2%しかいない」
少し嬉しくなることが書いてある。
「魔法文官の働く場所は、主に3つ。王城、賢人宅、独立。」
独立がいい。けど、スライム一匹倒せない自分に、できる気がしない。
賢人宅で働く方法、を調べてみる。
「それは運だね」
声が上から降ってきた。タブレットから顔を上げるとキトが覗き込んでいた。
「なんだよ、運て」
「賢人は気まぐれ。やたらに住処も教えない。賢人がどんな人かなんて、名前と簡単な経歴しか知らないんだから。賢人との出会いは運。パスターカ、君、運が強い方じゃないだろ?」
笑みを含んで、キトが問いかける。
む。なんか馬鹿にしてないか? コイツ。
「良くは、ない。悪くもないが」
パスターカの答えに、キトは堪えきれずに吹き出した。
「いや、悪いだろ!」
「それほど悪くは…………」
「君が遠征授業を選択した日は、かつてないほどの嵐だった。落雷があちこちで起きた日だ」
「防水の結界を張ったし……」
「君の防水の結界だけあっという間に綻びて、君は濡鼠のようだった」
「あれは! 雷の威力が……」
「おまけに、雷除けも効かない。危うく君は落雷で死にかけたじゃないか」
思い返して見れば、確かに防水呪文が切れて濡れた。
雨避けに側の木の下に避難し、その木に落雷があった。
いち早く気づいて危険を察知したキトが、パスターカにサンダーバリアの呪文を施した。
キトがいなければ、死んでいたか大火傷を追っていたかも知れない。
「まだあるぞ。魔法生物学の時間には、ピクシーに気に入られ、人目につかない裏塔の階段天井に3時間も宙吊りにされてた」
あぁ、そんな事もあったな。
あの時もキトが助けに来てくれたんだっけ。
「そもそも、剣士希望なんだからピクシーにやられる前に攻撃すれば良かっただろ」
キトの言葉にパスターカが力なく反論する。
「だって、ピクシーが女の子だったから……」
ため息をつきながらキトが、続ける。
「適正試験は大事だよね。僕は、パスターカが剣士だったら生きた心地がしない」
ムッとしたパスターカにキトは続けた。
「僕の使命は君を生かす事だ。僕はパスターカと組む」
驚いたパスターカは、キトの顔をまじまじと見た。
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