29人が本棚に入れています
本棚に追加
メニへマーガレットの花束を
マーガレットの花束をメニの墓に供えて、ナザが呟く。
「メニ、あなたは見通してたんですか? オレには無理だったけど。オガノラは、あなたの望み通りになりました。正直、複雑な気持ちです。俺はパスターカを見捨てる気はないので。間接的に、オガノラを面倒見ることになるのでしょうね。サリもカミリアン王もパスターカの判断に納得しています。俺が。俺の気持ちだけが、置き去りのままで……」
胸に込み上げた気持ちが溢れて、ナザは唇を噛んで空を見上げた。
「ナザーーー!」
大声に振り向くと、パスターカが走ってくる。
腕に抱えきれないほどのマーガレットの花束を抱いて。
「サリからナザがここだって聞いたから。俺も大師匠に挨拶しようと思って」
笑顔でナザに言うパスターカに、ナザが尋ねた。
「何で、マーガレットの花束にしたんだ?」
パスターカは首を傾げた。
「そう言えば、何でだろ。なんか、マーガレットって強く思っちゃったんですよね。この花だ、って。俺、花のこと知らないんですけど。綺麗で可愛らしい花だな、って」
ナザに笑顔を向けて言う。
一瞬、パスターカの瞳が朱色に見えた。
もう一度パスターカを見た時には、いつものブルーブラックの瞳に戻っている。
オガノラ。
お前の仕業か?
メニの好きな花をパスターカに選ばせたのは。
浮かんだ疑問は口に出さずに、ナザはパスターカの髪をクシャッと撫でた。
「よく祈っておけよ。もしかして。万が一。メニがお前に加護をくれるかも知らんからな。……とは言え、この先は本人の資質と努力で進んで行くしかないと思うが。本人の資質が薄いんだから、努力で賄えよ」
パスターカはメニの墓にマーガレットを供ながら、大きく頷く。
「サリから、魔法学校講師のお仕事をいただきました。来週から、学校へ、呪文学を教えに行きます。」
「呪文学ぅぅぅ? お前が? 本気か? パスターカ! 断わるなら今の内だぞ」
「うぅ、それ、キトにも言われました」
「皆、言うだろうな。オガノラに使った会話呪文とか、もう理由が分からんからな。あれは呪文じゃなくて、ただの人たらしだろ」
ナザが笑う。
ナザの笑い声を聞いて、パスターカは嬉しかった。
メニの墓に祈る。
メニ、はじめまして。
俺、ナザの弟子のパスターカです。
訳あってオガノラと同居体です。
これで、良かったんですよね?
俺は、ナザや俺の大事な人たちを守れる人になりたいです。
どうか、見守っていてください。
メニへの祈りを終えたパスターカに、ナザが話しかけた。
「ところでどんな呪文を教えるんだ?」
パスターカは元気よく答える。
「そりゃあ。使い回し呪文です!」
パスターカの魔法文官士としての道のりは、始まったばかりだった。
了
最初のコメントを投稿しよう!