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強運はキトのおかげ、だ、と?
「なぜっ?」
パスターカが目一杯、目を見開いてキトに尋ねる。
「いや、だって、お前一人で賢人に会えそうもないし。かと言って、現状、王城にコネのある親父さんが、剣士を継げなかったお前のために口利きをしてくれるとも思えないからな」
シュンと項垂れるパスターカ。
確かにキトの言う通りだ。
かと言ってスライム一匹倒せない自分にキトを付き合わせるなんてできない。
魔法文官で活躍できる未来は、描けない。
「おーいー。パスターカ、そう言うトコ。ほんと、放っておけないよね、君はズルい」
キトはパスターカの髪をくちゃっと撫でた。
「安心しなよ、僕は強運だから。それに、ゆくゆく魔法文官パスターカのことを作品にするつもりだし。君の運のなさを僕が引っ張りあげるよ」
ニッと笑うキトに、パスターカは身震いした。
コイツ、きっとある事無い事、無様な俺の姿を面白おかしく書くつもりだな。
くっそ。見てろよ。絶対賢人宅で働いてやる。
決意したパスターカを見て、キトはクスっと笑った。
卒業間近の帰り道。
パスターカとキトは国立図書館へ寄ることにした。タブレットでは閲覧できない呪文書を読もうと思ったからだった。
図書館は王城から少し離れた郊外にある。
のんびり歩いていたが、途中から空気が変わった。辺りにピリピリとした嫌な空気感が張り詰めている。
パスターカとキトは顔を見合わせた。
間違いない、自分だけでなくキトも異変を感じている。首の当たりが、チクチクする。髪の毛が逆立つ。
子供の悲鳴が上がった。
パスターカとキトは、声のする方へ駆け出す。
図書館前の広場で遊んでいた子どもたちのようだ。散り散りになって逃げ出す子どもたち。
その先にはソルトゴーレムが仁王立ちしている。ソルトゴーレムは怖さの余りへたり込んだ男の子に手を伸ばした。
「守・壁!」
パスターカが夢中で叫ぶ。
ポヨン、と現れたのはスポンジの壁だった。
ソルト・ゴーレムは自分の目の前に現れた高い高いスポンジの壁をポヨポヨ触っている。
「ソルトゴーレムの知能が低くて助かったな」
言いながらキトが少年を抱きかかえ、離れた場所まで連れて行く。その間にパスターカがソルトゴーレムと向き合う。
ひよっこ文官パスターカの呪文効力時間は短い。あっという間にスポンジの壁が消えた。
不思議そうにキョロキョロするソルトゴーレム。
パスターカに気づいて、手を伸ばして来た。
「燃・塩!」
思いついた次の呪文を叫ぶ。
またたく間に、ソルトゴーレムの体が炎に包まれた。ブスブスと音をたてて燃えて行く。ソルトゴーレムの白い体に焼き目が付いた。
炎はみるみる収まって行く。
焼き目のついたソルトゴーレムは手のひらや自分の身体をキョトキョトと確認している。
目鼻もないのにどうやって見ているのだ。
「感心してる場合かっ! 焼き塩作ってどうするのさ! 鳥でもぶち込んで塩釜焼きにでもするつもり?」
子どもを安全な場所に避難させ、戻ってきたキトが勢いよく文句を放つ。
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