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キミたち、戦闘漫才やってるの?
「いやぁ、溶けるかな、と思って」
ソルトゴーレムのパンチを避けながら、パスターカが言う。
「溶ける攻撃しか、知らないのか?」
キトが呆れ顔で呟いた。
ソルトゴーレムは、ちょこまか避けるパスターカが悔しいのか、地団駄を踏んでいる。
知能は2歳程度だが、パワーがあるだけ厄介だ。
ソルトゴーレムの地団駄は地面に足がめり込んで大きな穴が出来ていた。
体の大きなソルトゴーレムには、足首までの深さだが。
穴を見ていたのは、キトだけではなかった。
パスターカが攻撃を避けながら、穴を見つめる。
嫌な予感がした。
「落・穴!」
パスターカが唱える。
懲りない奴だ。
落ちる訳ないだろ。
と思ったキトの目の前に、穴(ゴーレム自身が作った窪み)に両足を揃えたソルトゴーレムが直立不動で立っている。
なんて、素直なんだ。ソルトゴーレム。
キトは、感動を覚える。
ふとパスターカに目をやると、パスターカもつられて直立姿勢を取っていた。
つられてどうするんだ。
こちらも素直だ。
ゴーレムの体は岩塩でできている。
直接攻撃をしても、すぐに再生するだろう。
打撃を与えられるのは魔法攻撃だが、パスターカが倒せる呪文はあるだろうか。
キトが考えている間に、パスターカの呪文効力が
切れたソルトゴーレムが、ファイティングポーズを取る。
パスターカからは、次の呪文が出てこない。
キトもスライムぐらいなら倒せるが、元来治癒魔法が専門なので、ゴーレム相手には打つ手が見当たらない。
二人とも攻撃を避けることはできるが、ゴーレムを倒せず、このままだと体力だけが消耗していく。
どうするか。
「砕・散・塩・岩! 現海・寄波・流塩岩!」
パスターカとキトの後ろから、声が響いた。
二人はソルトゴーレムが砕け散り、現れた大波に流されるのを見た。
あっという間に大波は消えた。
ソルトゴーレムを消え失せている。
「幻影魔法?」
パスターカとキトが振り返ると、二人と同じくらいの少年が立っていた。
「面白いモン見せて貰ったな。『落・穴』とはね。オレも魔法文官やってるけど、初めて聞く呪文だったわ」
笑いながら言う少年に、パスターカの耳がほんのり朱に染まる。気まずそうにしながら、パスターカは頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとう。俺はパスターカ。今日の適正試験で魔法文官になった。こっちはキト。魔法療法士兼作家。キミも魔法文官なの?」
「まぁね。で、キミたちはなんでここに来たんだ?」
「魔法文官の勤め先と呪文を調べるために、図書館に行こうと思ったんだよ」
「勤め先、探してるの? なら、家来る?」
「え?」
「オレはナザ。ナザ・キロア」
キョトンとしているパスターカの脇腹をキトが小突いた。
「バカ。賢人の名前くらい覚えておけよ。三賢人の一人だ!」
「え? 俺たちと変わらなそうな年齢なのに?」
ナザが笑い出した。
「ずっとキミたちの戦い見てたけど。やっぱ、キミ面白いよね。見た目に惑わされてはいけないよ。多分オレはキミ達より百才ほど年上だ」
「え? 本当に?」
目を見開いたパスターカを横目に、キトがため息をつく。
「そんな訳ないだろ。ナザ様は18才。最年少で賢人まで上りつめた才能の人だよ」
「様は、やめて。オレね、キミたちのレベルがそんなに低いのに、身を挺して子どもたちを救った勇気と、ソルトゴーレムとの戦闘漫才、気に入っちゃったんだよね、だから良かったらうち、おいで」
かくしてパスターカとキトは、戦闘漫才が気に入られたという理由のみで、賢人ナザの弟子となった。
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