キミたち、戦闘漫才やってるの?

1/1
前へ
/29ページ
次へ

キミたち、戦闘漫才やってるの?

「いやぁ、溶けるかな、と思って」  ソルトゴーレムのパンチを避けながら、パスターカが言う。 「溶ける攻撃しか、知らないのか?」  キトが呆れ顔で呟いた。  ソルトゴーレムは、ちょこまか避けるパスターカが悔しいのか、地団駄を踏んでいる。  知能は2歳程度だが、パワーがあるだけ厄介だ。  ソルトゴーレムの地団駄は地面に足がめり込んで大きな穴が出来ていた。  体の大きなソルトゴーレムには、足首までの深さだが。  穴を見ていたのは、キトだけではなかった。  パスターカが攻撃を避けながら、穴を見つめる。  嫌な予感がした。 「落・穴(ラク・ケツ)!」  パスターカが唱える。  懲りない奴だ。  落ちる訳ないだろ。  と思ったキトの目の前に、穴(ゴーレム自身が作った窪み)に両足を揃えたソルトゴーレムが直立不動で立っている。  なんて、素直なんだ。ソルトゴーレム。  キトは、感動を覚える。  ふとパスターカに目をやると、パスターカもつられて直立姿勢を取っていた。  つられてどうするんだ。  こちらも素直だ。    ゴーレムの体は岩塩でできている。  直接攻撃をしても、すぐに再生するだろう。  打撃を与えられるのは魔法攻撃だが、パスターカが倒せる呪文はあるだろうか。  キトが考えている間に、パスターカの呪文効力が 切れたソルトゴーレムが、ファイティングポーズを取る。  パスターカからは、次の呪文が出てこない。  キトもスライムぐらいなら倒せるが、元来治癒魔法が専門なので、ゴーレム相手には打つ手が見当たらない。  二人とも攻撃を避けることはできるが、ゴーレムを倒せず、このままだと体力だけが消耗していく。  どうするか。 「砕・散・塩・岩(サイ・サン・エン・ガン)! 現海・寄波・流塩岩(ゲンカイ・ヨハ・リュウエンガン)!」  パスターカとキトの後ろから、声が響いた。  二人はソルトゴーレムが砕け散り、現れた大波に流されるのを見た。  あっという間に大波は消えた。  ソルトゴーレムを消え失せている。 「幻影魔法?」  パスターカとキトが振り返ると、二人と同じくらいの少年が立っていた。 「面白いモン見せて貰ったな。『落・穴』とはね。オレも魔法文官やってるけど、初めて聞く呪文だったわ」  笑いながら言う少年に、パスターカの耳がほんのり朱に染まる。気まずそうにしながら、パスターカは頭を下げた。 「助けてくれて、ありがとう。俺はパスターカ。今日の適正試験で魔法文官になった。こっちはキト。魔法療法士兼作家。キミも魔法文官なの?」 「まぁね。で、キミたちはなんでここに来たんだ?」 「魔法文官の勤め先と呪文を調べるために、図書館に行こうと思ったんだよ」 「勤め先、探してるの? なら、家来る?」 「え?」 「オレはナザ。ナザ・キロア」  キョトンとしているパスターカの脇腹をキトが小突いた。 「バカ。賢人の名前くらい覚えておけよ。三賢人の一人だ!」 「え? 俺たちと変わらなそうな年齢なのに?」  ナザが笑い出した。 「ずっとキミたちの戦い見てたけど。やっぱ、キミ面白いよね。見た目に惑わされてはいけないよ。多分オレはキミ達より百才ほど年上だ」 「え? 本当に?」  目を見開いたパスターカを横目に、キトがため息をつく。 「そんな訳ないだろ。ナザ様は18才。最年少で賢人まで上りつめた才能の人だよ」 「様は、やめて。オレね、キミたちのレベルがそんなに低いのに、身を挺して子どもたちを救った勇気と、ソルトゴーレムとの戦闘漫才、気に入っちゃったんだよね、だから良かったらうち、おいで」  かくしてパスターカとキトは、戦闘漫才が気に入られたという理由のみで、賢人ナザの弟子となった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加