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ナザとサリはパスターカを評価している
「まったくあなたは素直じゃないですね。パスターカくんを認めているのなら、もっと優しい言葉をかけてあげたらどうです?」
香りの高い茉莉花茶をナザの執務机に置きながら、サリが話しかける。
カップから、茉莉花の香りを携えた湯気がゆっくりとくゆり、ナザの鼻腔をくすぐった。
ナザはカップを持ち上げて、香りを楽しんでいる。
「呪文力が弱いとは言え、あなたの出した課題を十分にこなしていますよ。荷物移動による空間把握、図書整理による書籍区分、大〜小分類の記憶、そしてガーデンバードの世話による、生物との意思疎通と身体能力増進、浮遊についての把握力は、過去最短。何より彼は人とのコミュニケーション能力が高い。分からない所を専門家に、聞く謙虚さもあります」
ナザは、パスターカに関する報告書に目を通す。
「魔法文官の主な仕事は、新しい強力な呪文を作ること、それを世に知らしめること。呪文学術書を発刊すること。呪文力が弱いのは魔法文官としては致命的」
「それは彼が呪文構文を理解すればなんとかなるでしょう。彼は、物の具現化が難なくできる子ですから。彼とキトくんのヌメランスライムとの戦いの話し、ナザも聞いたでしょう? 普通の者はキトくんのように、対象物を、焼く、破壊する、溶かす。だけどパスターカくんは、塩を出現させた」
「全く効果がないのにな」
短くナザが遮る。
「目下のところ、重要な趣旨はそこではありません。教わらない内から、難なく物を具現化できる能力を持つ少年が現れたと言うことです。適正試験の結果は嘘をつかない。彼は間違いなく、我らを超える魔法文官になると思いますよ」
サリの言葉に、ナザは腕組みして考え込む。
「怖いですか? あなたの特訓で魔法文官候補が挫折していくことが」
偉大な賢人ナザの下で修行した魔法文官は十数人。その全てが途中で挫折し、魔法文官を廃業した。
何も言わないが、見込んだ者たちの挫折する苦しさを一番感じているのは、ナザ自身だとサリは思っている。
だから彼は長い間、弟子を取らなかった。
パスターカとキトに出逢った時、ナザは自分を百歳を超えている、と言った。
信じたパスターカと、18才だと訂正したキト。
魔法学術書に掲載されているナザの経歴には18才と記載されている。きちんと読み込んで頭に入れているキト。
実際ナザの年齢は百を超えている。
本当の事を言ったナザを疑いもせずに信じるパスターカ。
二人の少年は対極の性質を持っている。
「え? 賢人が嘘をついていいの?」
事実を知ったパスターカは、ナザに問うた。
口の効き方と質問内容に驚き、隣に立っていたキトがパスターカの口を塞いで、ナザに頭を下げた。
「すみませんっ」
サリが二人を見て笑う。
「見た目を18才の設定にしているからねぇ。強ち嘘ではないんだよ。それに、賢人ともなると狙われやすいのでね。真実の詳細を語る必要はないと思うんだよね」
考えあぐねているナザの肩に優しく手を置いて、サリは執務室を出ていった。
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