ふたりの気持ち

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入館証を手に俺は朝から良い気分で大学の廊下を歩いていた。 ほんとは良くないとわかっているけど、わざと学生証を家に忘れて来た。 最初に柚香をあの受付で見た時、俺は一目惚れっていう言葉の意味を理解した。 多分俺が入学したのと同じタイミングで、彼女は大学の事務室に採用されたらしい。 初めて、これはほんとに教授に提出する書類を失くした時に対応してくれた彼女を見た時、今まで感じた事のない感情を抱いた。 彼女はほんとに可愛かった。 年上だという事は明白だったけど、可愛いと感じた。 書類の書き方を教えてくれる彼女からは、良い匂いがして、書類が見えない振りをして、彼女に近付いた。 彼女の説明なんて聞ける状態ではなくて、一通り説明が終わった後に、 「わかりましたか?」 と言われたけれど、何も頭には入っていなかった。 「わかりました」 と答えたものの、俺はその後、必死に書類を呼んで記入を終えた。 あの日から、ほぼ4年近く俺は何回事務室に通ったんだろうか。 何度目かに、向こうから自然に俺の名前が出て来た時には飛び上がりそうになる位に嬉しかった。 最初は名前を知っていてくれる事だけで嬉しかったのに、 今度は柚香の口から俊也って呼んで欲しくてたまらなくなった。 いつかそんな日が来たらいいのにな。どんどん我儘になって行く自分がいる。 こんな事じゃ、嫌われる。少し自嘲しないとダメだな。 そんな事を考えながら、教授室に向かっていると、スマホの着信音が鳴った。 こんな朝早く、誰だろう。
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