8 我が同胞

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8 我が同胞

 むせ返るようなカビの匂い。四畳間程度の一室には、窓と言えるものがない。代わりに換気扇が天井端に見えはするものの、機能していない事は鼻で分かる。  天井に壁や床に至るまで全てがコンクリート。ドアは鉄扉。そんな無機質極まる懲罰房を、白色の裸電球が冷たく照らす。そして同じく天井に備えられた監視カメラは、健気にも無言のまま、代わり映えのない部屋を移し続ける。  懲罰房は過酷な環境だ。どんな悪党であっても、ほんの数日で大人しくなると評判だ。  ただし羽澄には当てはまりそうにもない。彼の強烈な怒りは、半日経過した今も盛んに猛り狂っていた。 「開けろ! 開けやがれ、この野郎!」  羽澄は逞しかった。しかし冷静ではいられなかった。寝谷との一件を繰り返しに思い出しても、理不尽としか感じられない。その怒りが、腹の底から喚き散らす動力源だ。 「そもそも何だ! オレが頼った時には冷たくしといて、寝谷の言葉だけはアッサリ信じやがって! お前らの大好きな証拠はどうした、証拠はーーッ!!」  やがて鉄扉の向こうで覗き窓が開く。監視の所員だった。 「うるさいぞ。静かにしてろ」 「これが黙っていられるか! 冤罪だぞ! 自演だぞ! 捕まえるにしても、少しは調べてからやれよ!」 「お前の罪については、ただ今精査してる。沙汰があるまで大人しく待て」 「そんな悠長に待っていられるかよ! 篠束って女子がいる! そいつは今、危険な目に遭おうとしてるから、即刻確保しろ!」  所員は何も答えない。代わりに覗き窓を閉じて、立ち去っていった。  無言の返答に鎮静効果など無かった。むしろ火に油である。 「お前ら大人はいつもそうだ! 真犯人を探すどころか上手く踊らされやがって! そんなに踊りたきゃ、いっそのこと小洒落た蝶ネクタイでも付けやがれ、馬鹿野郎ーーッ!」  羽澄は口調を激しく乱し、扉を殴りつける拳もヒートアップさせていく。言葉は怒声に、振りかぶるモーションも、大振りに変わっていった。 「開けろオラーーッ!!」  渾身の力で殴る。それでも、さすがに鉄扉は破れない。鉄板が歪んだ程度に留まった。 「いってぇ……。これを破るなら、破城槌(はじょうつい)でも用意しねぇと……」  拳の痛みは名誉の負傷。お陰で、忘れかけていた冷静さを取り戻したのだ。  それからは床にドカリと座り、コンクリート壁と向き合った。ここに来てようやく、力業での解決は不可能と理解出来た。かといって、成り行きに任せるだけの余裕が無いのも事実。 「早まるなよ篠束。せめてオレが戻るまで、動くんじゃない……!」  つい今朝方まで抱えていた漠然とした不安は、明確なリスクとして認識した。敵も、救うべき者も、既に把握している。寝谷の企みを打ち砕き、篠束を悪意から守り抜く。  そこまで見えたのに、囚われの身では無意味だ。現状を考えるほどに、憤激の炎は冷水を浴びせられ、収まっていく。その憤激の代わりには、自責の念が押し寄せてきた。  無力感が、心を斬り付けんばかりに苛もうとする。やがて喚く気力すら奪い去り、意気消沈してしまう。耐え難い想いは、大きな溜息となって溢れた。  だがこの局面においては、失望も有益であった。羽澄が大人しくなった事で、通路の物音が漏れ伝わるようになったのだ。声を落とした会話でさえも例外ではなく、正確に聞き取る事が出来た。 ――おい、依頼の件は片付いたか? ――いや、まだだ。さっきまで騒がしくしてたから、少し様子見する。執行は夜まで待った方が無難だろう。 ――それだと厳しいな。早めに動いた方が良さそうだ。何やら別の圧力が掛けられているらしい。 ――分かった。オレだってしくじりたくはない。例のガキみたいに殺されたら敵わん。 ――成功の暁には、正式に仲間と認めてくれる。今後は金と女に苦労せずに済みそうだ。寝谷とかいうガキ、とんでもない悪党だが、払いだけは異様に良いからな。 ――その為にも、サッサと済まそう。死体の処理さえ間違わなきゃ、どうとでも取り繕える。  不穏な会話だった。そして話し声が止むと、今度は足音だ。押し殺したような音が、少しずつ、こちらへと近寄ってくる。 (始末するって、まさかオレの事か?)  そう思った瞬間だ。鉄扉が小さく軋むと、僅かに開いた。そして筒状の物が投げ込まれるなり、再び鉄扉が閉じた。  危険だ。そう思った時には既に遅い。足元の筒は噴射音と共に、白煙を勢いよく撒き散らした。  その気体には刺激臭があり、同時に目眩も伴った。 「何だこれ、毒ガスか!?」  羽澄は息を止めて辺りを見回す。四方ともコンクリートで、突破口はない。鉄扉も、向こう側から塞がれているのか、開けようとしても押し返される。 「どこか、逃げ道は……!」  周りは壁しか無い。ならば壁に逃げ込もう。そう決めるなり、部屋の隅に寄っては、両手足をつっかえ棒の要領で登り始めた。ただの力任せ。しかし、どうにか登り詰めていく。  そうして頭が天井に届いた頃、ようやく刺激臭から解放された。久々に吸い込んだ酸素は、カビ臭くとも甘美な味わいだった。 「ガスは比重が重たいらしい。お陰で助かった……」  部屋の半分以上が白煙に包まれている。あの中に飛び込めば、今度こそ無事では済まないだろう。  そう思って眺めていると、再び鉄扉が開いた。今度は武装した2人の所員が入室。顔には重々しい防毒マスク、手には荒縄が握られていた。  どう見積もっても、取り調べの用意ではない。 「アイツら、やっぱりオレを殺す気だ。やるしか無いのか……!」  羽澄はいまだに躊躇した。相手は化物ではなく、歴とした人間なのだ。無闇に戦えば、どんな責を負うか分からない。傷害や暴行の罪に問われる可能性だって十二分に有る。そうなれば、自分が抱く正義も揺らぎかねない。  戦うか。それとも逃げるか。迷った末、1つの結論に辿り着いた。 「正義の鉄槌を喰らえオラァッ!」  羽澄はまだ、目的を最優先に出来るほど冷静ではなかった。飛び降りざま、1人の頬を蹴り飛ばし、もう1人は腹を殴りつける。それで2人は轟沈。ガスの充満する部屋で蹲った。 (そこでオネンネしてろ、バァカ!)  比較的、正義とは無縁そうな台詞を胸に秘め、懲罰房の外に躍り出た。ガスの影響はほぼない。手早く息を整えながら、付近の様子を確かめた。  現在位置の通路はL字型で、二手の分かれ道。右は突き当り。行くべきは正面だ。  建物の構造など知らない。だが走る。行ける所まで走り抜く。それからも入り組んだ道を、勘だけを頼りに走り続けた。  右へ左へ曲がり、突き当りで引き返し。そうして時間を浪費するうち、事態が進展する。彼の行く先に自由など無かったのだ。 「逃がすものか。無駄な抵抗は止めろ!」  突如として、正面の物陰から所員達が現れ、道を塞いだ。その全員が、防弾チョッキに二段式警棒で武装している。突破は簡単では無さそうだ。  羽澄が足を止めると、背後からも駆け足が聞こえた。最初に倒したはずの2人までもが、羽澄に迫っていた。挟み撃ちの窮地である。 「クソッ。こうなったら戦うまでだ!」  羽澄は黙って拳を握りしめた。そして気炎を放ちながら、猛々しくも身構えた。後は互いにぶつかるだけ。両者を隔てるものは何もない。  だが、こんな土壇場において、呼び止める声が鳴り響いた。どこかノンキな、抑揚のある口調だった。 「おやおやぁ? 久方ぶりに様子を見に来たら、やたらと騒がしいじゃあないか。何事だい?」  問いかけに、所員達があからさまに狼狽えた。中には身構える事すら忘れて、敬礼する者まで現れだす。 「副所長! どうしてこのようはムサ苦しい所に!?」 「別に。視察も職務のうちさ。給料ドロボーだなんて陰口を叩かれたくはないからね」 「今ばかりはご容赦を。トラブルの真っ最中です」 「ふぅん。ならば私が指揮してあげよう。君たちも心強いだろう?」    尚も言い募ろうとする所員を押し分けて、その人物は羽澄の方へ歩み寄った。20代と思しき若い女だ。黒髪を後ろに結い、青縁の大きなメガネ。服はブラックスーツにタイトスカート、足元はグレーのパンプス。  居並ぶ所員たちと違って非武装だ。全体的に身体の線が細く、鍛えた様子もない。にも関わらず、女は無警戒に悠々と、羽澄の方へと歩み寄る。  例えるならば、レッドカーペットを行くセレブのような優雅さを漂わせつつ。 「危険です、早くお戻りください副所長! そこに脱走者が!」 「そう騒ぐな。少し話をするくらい良いだろう?」 「なりません、お引取りを!」 「クンクン……。おやぁ? 随分と妙な臭いがするなぁ。こんな地下で一体何をしたと言うのかね?」  女はわざとらしく鼻を鳴らした。しかし、軽い口調とは裏腹に、ほんの僅かばかり、語気が強くなる。身体から発する気配も、鋭さを増していった。  その途端に屈強なる所員達も、しどろもどろになった。 「あの、それはですね……」 「どこか鼻をつくような刺激、それに少し煙っぽいね。おかしいなぁ」 「いえ、その、決して問題のある事は何も」 「分かったよ、これはタバコを吸ったんだね? こんな空気の籠もる場所で吸うだなんて、よほどの愛煙家なんだねぇ。嗜好品を我慢するというのは、中々骨が折れる事だけど、勤務中は我慢しないとさぁ」 「いや、ええと……」 「タバコだね。そして煙に追いたてられるように、この少年は房から飛び出した。そうだろう?」 「その違反者、羽澄は静止を振り切り、強引にも脱走を企み――」 「君、私はタバコの煙だと判断したのだよ。それとも何かい。君にはわざわざ反論するだけの、物的証拠があると言うのかい?」  ここで女が、鋭く所員を睨んだ。それは蛇とカエルのお見合いのようなもので、膠着にすらならない。  所員もさすがに、毒ガスを撒いたとは言えなかった。それから彼は用件を尋ねるのだが、既に1歩分、副所長に負けている。強く出るだけの理由は既に無かった。 「それはさておき副所長、ご用件は何でしょうか」 「この羽澄という少年と話がしたい。それだけだよ」 「先程も、逃走を企てた危険人物であると、お話ししたのですが……」 「ンン?」 「……承知しました、どうぞご随意に。ただし安全確保の為、護衛を付けさせていただきます」 「構わないよ。それから換気システムを起動したまえ。私の記憶が確かなら、十全に機能するはずだよ」 「そちらも抜かり無く、速やかに」 「いやぁ悪いね。急に指図してしまって。きめ細やかな対応に感謝するよ」  そうして副所長は、鼻歌交じりで羽澄の方へ歩み寄る。まるで花畑でも散策する様子だが、辺りは全面コンクリートで、白色灯のチラつく下だ。 「やぁ羽澄君。私は緒野寺求稀(オノデラクレア)だ。ここでは副所長の立場にいるよ。これから少々、対話の時を愉しもうじゃあないか」  そう問いかけられても、羽澄は構えを解かない。むしろ、女を人質に出来るのではと踏んだ。  まずは緒野寺の自由を奪って拘束し、攫う。そして所員を脅して退路を確保。外に出られさせすれば、後はどうにかなる。全力で逃げ回れば、篠束を探し当てる事も難しくないハズだ。  どこまでやれるかは不明だ。しかし、ここでジッとするよりはマシに思う。 「大人なんて当てにならない。どいつもこいつも腐りきってるんだ……!」  羽澄は腰を深く落とした。そして緒野寺との距離を目測し、脳内でシミュレートを開始する。 「おやおや。何か良からぬ事を考えているようだね。諦めたまえよ。この島は大して広くない。そこを逃げ回るなんて、非現実的だと思わないかい?」  緒野寺はカラカラと笑った。幼子の愛らしいイタズラを見た後のような、愉快そうな笑みだ。  構うな、やるぞ。羽澄は行く末などを見ていない。たとえ成功する目が低くとも、成し遂げる覚悟であった。 ――今だ!  羽澄は強く踏み込んで、飛びかかろうとした。しかし、それよりも先に緒野寺が動いた。  緒野寺は既に、羽澄の眼前に居る。予備動作は一切見えず、羽澄の想定を遥かに超えた速度で、詰め寄ってみせたのだ。 「いつの間に……!」  驚愕のあまり、その場で硬直する羽澄。そんな彼の耳に、宥める言葉が囁かれた。 「安心したまえ。私は君と同類だよ」 「えっ……?」 「ともかく中へ戻ろうか。決して悪いようにはしないと、約束しよう」  羽澄は、不承不承にも言葉に従った。緒野寺を信用したのではなく、予想を遥かに上回る手練(てだれ)であるからだ。人質にしたくとも返り討ちに遭いかねない。  つまりは、計画の練り直しが必要だった。 「さてと、諸君にはテーブルと椅子を用意してもらおうか。さすがに立ち話じゃ格好がつかないだろう?」  その言葉で、テーブルと2脚の椅子が速やかに用意された。入口側が緒野寺、対面に羽澄が腰を降ろす形になった。  そして緒野寺の護衛は2人。それぞれ部屋の内と外の両側から、出入り口を固めている。羽澄としては、袋の鼠といった心境になる。 「クンクン。おっ、もう臭いはしないね。人体に影響を及ぼす濃度で無くなったという事さ。これで安心して話し合えるね」 「話し合いの前にオレの要求を聞け。篠束結姫という女子が居るから、そいつと話をさせろ」 「フムフムどうして。フィアンセが恋しくなったかな?」 「色々違う。アイツは今、犯罪に巻き込まれる可能性が高い。だから安全な場所に匿ってやりたいんだ」 「そうかそうか。我が身を省みるよりも先に、女の心配か。それを世間では愛と呼ぶねぇ」 「信じてないだろ。一刻を争う事態だぞ」 「いやいや失敬。任せたまえ」  緒野寺はタブレットPCを取り出すと、画面を手早く叩き始めた。そして、ひとしきり操作すると卓上に置いた。羽澄にも見える角度だった。  画面が移すのは平面図で、女子寮の見取り図がある。その図上にはいくつもの点があり、そのうち1つは顔写真や氏名と紐づいていた。羽澄には、それが篠束の顔だと分かる。 「彼女は現在、自室に居るようだね。お相手は寝谷真純(ネタニマスミ)だ。晩餐後のカフェインタイムについてでも話しているのかな?」 「そいつだ! 篠束を寝谷から引き離せ! 早くしないと手遅れになる!」 「うむうむ承知した。少し静かに」  再び緒野寺が画面をまさぐると、今度は喉を鳴らした。そして声を作る仕草の後、こう告げるのだった。 「篠束結姫さん、篠束結姫さん。至急、中央棟の総合受付までお越しください。繰り返します――」  定型文のようなアナウンスを口にしたら、今度はチャットだ。またもや高速で打ち込み、何者かに連絡を入れた。 「これで良し。さて、肝心の篠束君は……と。問題なく移動しているね」  タブレット上では既に見取り図は無く、ライブ映像に切り替わっていた。角度からして監視カメラだと思う。そして映し出された篠束は、確かに無事のようだった。 「愛くるしい少女だ、庇護欲をそそる。こんな恋人を持ったら、心配性に悩まされそうだ」 「違うと言ったろ」 「ともかく、これでしばらくは安心だ。雑務を手伝うテイで匿ってもらうからね」 「所員どもは信用できない」 「私が見込んだ相手に委ねた。少なくとも、君が危惧する事態にはならないよ」  緒野寺はタブレットを机の脇に置いては、にこやかに微笑んだ。その笑顔には、どこか人を怯ませる効果が感じられた。 「さてと。次は私の番だな。こちらも骨を折ったのだから、口を滑らかにしてもらえると嬉しいね」 「何を話せと。どうせ聞く耳なんて、持ち合わせてないだろ」 「荒んだ顔をしているね。さながら、心無い連中にイタズラされた野良猫のような顔じゃあないか。若者にこんな表情をさせてしまうとは、我が国の行く末も暗いな」 「冷やかしなら、もう何も喋らんぞ」 「いやいや済まない。こちらとしても気が逸っていてね。心が昂ぶった結果だから、大目に見てくれたまえ」  緒野寺はそこで、背後に視線を送った。そこには、泰然と直立する所員の姿がある。  何の目配せだ。羽澄は警戒心から身を固くすると、予期せぬ事態が起きた。  不意に、一迅の風が駆け抜けた。かと思えば、視界は除々に色彩を失っていった。くすんだ壁も、所員の男たちも、テーブルの赤錆さえもモノクロームに塗り替えられてゆく。 「これは……化物か!?」  羽澄はパイプ椅子から立ち上がっては、素早く見回した。しかし、敵意の類が感じ取れない。  更に驚かされたのは、眼前の緒野寺だ。目に映るものがモノトーンに変わりゆく中、彼女1人だけが平常を保っている。  やや白めの肌に不敵な笑みを浮かべては、青縁メガネをクッと持ち上げる。 「うんうん、やはりそうか。あの晩は決して見間違いでは無かったのだな」 「何者だお前は!?」  羽澄は歯を剥くほどに激しく吠えた。  一方で、緒野寺は構えるどころか、立ち上がる気配すら見せない。ただ掌を突き出して、宥めようとするばかり。 「繰り返しになるが、落ち着きたまえよ。君は思慮深いように見えて、割と短気なのだな。それが長所と言えるまで伸びるは、今後次第か」 「質問に答えろよ、何者だ!」 「言ったろう。君のお仲間なのさ、我が同胞(はらから)よ」 「それはどういう意味……ッ!?」  緒野寺はおもむろに虚空へ手を伸ばすと、何かを掴んだ。煌めく閃光。後に、彼女の手に現れたのは、蒼炎に燃える大金槌(おおかなづち)であった。  その重量感に溢れた槌(つい)を、軽々と旋回させて、肩に担いでみせた。いとも容易く、更には着席したままで。その手軽さは、新体操のバトンを扱うかのようである。  羽澄は驚愕した。そして戦慄もした。瞬く間に思考は止まり、身じろぎすらも忘れて、ただ鎚を凝視するばかりになる。 「これで理解しただろう。私にも、君と同じ芸当が可能なのだ」 「オレだけじゃなかったのか……!」 「願わくば末永き付き合いを。互いに貴重な存在であるのだからね」  ここで緒野寺が何度目かの、眩い笑みを見せる。  羽澄は、その笑顔を素直に受け止められない。そして身構えたままで立ち尽くす。彼が大人しく席に戻る事ですら、短くない時を要する有様だった。
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