九月のバッタ

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 我が集落では敬老の日にちなんで、七十歳以上の方にプレゼントというかお祝いの品が送られる風習がある。昔は六十歳以上だったらしい。あたしの最初の記憶では六十五歳だった。それが今や七十歳である。  「真里ちゃん、一緒に行くか?」  お母さんが当然のことのように訊いてくる。こっちは村の敬老会のことなんて気にも留めていない。  月曜が敬老の日の振替休日になっていることすら忘れているくらいなのだから。靴下を脱いで洗濯機に放り込んだタイミングで敬老の日がやってきたのだ。  こっちは睡魔と格闘し、小学校入学以来ずっと一学年一クラスという濃密な人間模様過ごし、それこそ剣林弾雨が飛び交う地獄の戦場から我が家に帰ってきた所である。歩いて十五分、車で五分とかからない場所まで行かなければならない。はっきり言って、面倒臭い。  「今日ちょっとお腹が痛い……」 プールの授業を見学するので覚えたての仮病を使うのは朝飯前である。が、わずか四十戸足らずしかない我が集落の江戸時代から続く八つ墓村も真っ青の超濃密な、それこそ鍋の底に残った煮詰まった出汁もどきの人間関係が嫌なお祖母ちゃんの代理でお母さん一人を行かせるのも余りに無慈悲である。  「着替えるのがめんどいから制服のまま行く……」  最後には仏心に押し切られてしまう。  でも、良心の呵責だけが理由でもない。  あたしは今、オタク女子仲間と同人誌の発行を企んでいる。大童澄瞳さんの『映像研には手を出すな』に触発されてである。が、肝心の創作活動が厳として進んでいない。旗はぶっ立てたけど一歩も踏み出していない。  小説にしてもエッセイにしてもシナリオにしても田舎を通り過ぎて、僻地、人類未踏の地である我らが地元にはこれと言ったネタがない。という事で、最近は話の元になる何やら探しのために出来るだけ外に出るよう心掛けているのであーる。
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