九月のバッタ

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 寿と印刷された大きな白い色の紙袋をもらってお役御免と思いきや、あたしたちを見つけた区長さんが集会場の奥からわざわざ出てくる。  「どうもご苦労様です。暑い日が続いとりますけど系子さんはお変わりなくお過ごしですか……」  「世話役の皆さんにも暑い中ご苦労さまで……。母も来たがっておりましたけど、今日はちょっと夏風邪気味でして……」  「都会やとインフルエンザが流行っとるみたいですけん気をつけんと。まあ、こう暑いとサルも山から下りてこんので助かるんやけんど……」  死んだお祖父ちゃんが区長をやっていたので今の区長さんも炎天下の中、何か言わないといけないという使命感からか取り留めのない話は続く。  「おっ、真里ちゃんも来てくれとるんか?すっかり中学生らしくなって……」  遂には校章と名札付きの制服をばっちし着込んでいる人間を目の前にして今更ながら中学生認定の言葉までかけて下さる。  どっかのおじい救世主が現われて区長さんに挨拶をしているのを潮に車へと退散する。  トミは人が沢山いるのを見るのが好きなのか、気分が高揚するらしくてキョロキョロしていたけど、それも飽きてきてたようで素直に後部座席の自分の席に乗り込む。  あたしもトミの横に座って紙袋の中を物色する。いつもなら好物の熨斗カワハギやイカの干物が入っていないか鼻面を突っ込んでくるのだけど、先月に地元関係者だけに催された宇佐神宮の花火大会に行くのに車の中で調子に乗り過ぎたトミはお祖母ちゃんに日傘の柄で脳天を三、四発シバかれたので今日はおとなしくしている。
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