九月のバッタ

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 「紅白饅頭に、これは瓦せんべいかな……」  包装紙を透かして中味を確認する。ずっしりしているのは佃煮の詰め合わせ。大きいのは梅干しセットだろう。一番大きくて平べったいのは軽いので味付け海苔か。もうひとつだけは全く予想が付かない。小学校の修学旅行でお土産に買ってきた夫婦湯呑みみたいだけど、去年を思い起こすと絶対になにか食べ物である。  「桃屋の磯自慢かな~」  食いしん坊のトミが湿った鼻先でクンクンしてくるけど、とんと分らない様子だ。  「四日市やったら吉来屋さんの煎餅か乾物やろうけど、長洲の方に有名な海苔屋さんがあるけんそうかもやね……」  お母さんはあたし以上に興味なさげである。田舎では絶対権力者である区長さんとの社交辞令を無事に終えたのだ。その気持ちはよくわかる。  郵便局の角で信号に引っ掛かる。ここを過ぎれば我が家まではすぐだ。  「ワン!ワンワンワンワンワン、ワン!」  ここに来てトミが何やら訴えてくる。  「トミ、どうしたん?」  トミの視線の先を見ると、セーラー服の胸ポケットか前襟辺りをジッと見つめている。  「うん……?」  左の胸ポケットに着いている名札に目を落とすと、黄緑色した三角の顔があたしを見上げている。  身長にして三センチくらい。俗に言うオンブバッタが少しだけ膨らんでいる右胸にくっ付いている。  「ワン!ワンワンワンワン!」  理由は分からんがトミがえらく怒っている。お母さんも振り返ってトミにどうしたかと訊いている。  「バッタがおるけん、家に着いたら逃がしたるわ……」  多分、さっきの集会所で紛れ込んできたのだろう。バッタにも親もいれば兄弟もいたろうに。が、これも運命である。
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