九月のバッタ

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 家に到着してお母さんがいつものようにバックで土蔵の脇に車を止める。車を降りて、さっそくバッタを開放してやろうと思うが当の本人がいない。  トミもキョロキョロしている。  「まさか……」  胸ポケットの中を何度も確認するがいない。白の上衣にくっ付いていればすぐにわかる。濃紺のスカートも同じくだ。  「バッタおらんようなっとる……」  お母さんはお祖母ちゃんへのお祝い品を持ってさっさと家の中へ入って行っている。  歯を磨いていると壁を伝わってヤモリが遊ぼうと言ってくるし、お風呂に入っているとエッチなカマドコウロギが覗きにやってくる。  そんな我が家でオンブバッタの行方不明事件に多くの時間を割いてはやれない。  もう一度だけ、車の回りをグルっと一周見回ってオンブバッタの捜索は終了する。すると今度はトミが喉が渇いたと言うので二人してお勝手から家の中へと入る。  「もし、今も車の中に閉じ込められていたら……」  都会のほうでは親がパチンコに興じている間に子供が車に置き去りにされ、熱中症で死亡なんてニュースをよく聞く。  人間の子供どころか、身長三センチ、体重数十グラムしかないオンブバッタの子供である。もし、閉じ込められていたらあと一時間も生きてはいられない。  バッタとは言え、敬老の日のお祝い品をもらいに行った場所で出逢ったお友達であることに違いない。
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