九月のバッタ

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 トミ専用のコップに水をなみなみと入れて土間に置いてやると、案の定、がぶ飲みしている。柴の雑種で短髪とは言え全身毛皮を着ているのだ。車の中はさぞや暑かったに違いない。  もう一度、下駄をつっかけてお母さんの白のヴィッツを見に戻る。炎天下の中、屋根なしである。後部座席を開けると中は赤道直下である。シートの下に、運転席や助手席のほうも捜索したがいない。座布団の下にもいない。窓にもくっ付いていない。  「やっぱりドアを開けた時にぴょーんっていったんかな……」  これだけ捜索して見つからないのだから致し方ない。  二階に上がって、制服を脱いでハンガーに掛ける。インナーを脱いでブラジャーを取る。洗濯済み用の衣類カゴからTシャツを取る。上半身裸のままで緑色にするか薄紫のぷーさん柄にするか悩んでいる。  と、なんだか視線を感じる。体育のプール授業、男子と女子とは別々である。体育座りで先生の話を聞いている女子生徒の方を普段おちょけている男子たちが何やらコソコソ言いながら見ている。その中で普段ほとんど接触のない地味目の男子が遠くからあたしの太ももだか胸だかをジッと見つめている。  「ニュータイプになったアムロがシャアの視線を感じる時ってこんなのかな?」
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