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普段眼にしている何気ない景色でも、些細なことがきっかけで極彩色に色付きだす。
頬を撫でる風も、かさかさと音をたてて擦れあう街路樹の葉も、街の稼働音も、全てが心地よく感じる。
私に対してこれっぽっちも興味のない世界が、まるで全身全霊で祝福してくれているような錯覚さえ起こす。
ただ感情が違うだけで、こうも世界が変わって見えるのか、これが生物学的な変化なのかと、自分自身に起きた出来事ながら、他人事のように驚いてしまう。
それまでの私は、子どもの頃からずっと勉強の毎日だった。誰かに言われた訳でも、親や教師に強制された訳でもない。ただ単純に勉強が好きだったのだ。
知らないことを知れる喜び、問題が解けたときの快感、難問に挑むときの高揚感、私はそのどれもが好きだった。人生には勉強しか必要ない。本気でそう思っていた。
だけど、そうじゃなかった。まだまだ世界には私の知らないことが沢山あった。
もちろんそういったことの知識はあったが、それはしょせん知識でしかなかった。ただ知っていることと、実際に経験することの間に、ここまでの隔たりがあることを私は知らなかった。
この感情が生まれてから、知らないことを沢山知った。
こんなにも胸が苦しくなるなんて知らなかった。姿を見れただけで嬉しくなるなんて知らなかった。勉強に手がつかなくなってしまうことがあるなんて知らなかった。
それもこれも、私一人では手に入れられなかったものだ。全ては彼が私に与えてくれたもの。
いま、私の世界は薔薇色に輝いている。
私は、人生で初めて恋をした。
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